七夕の日/京流



仕事の休憩中。

気晴らしに煙草でも吸おうと思って、携帯と財布も持って喫煙所へ。

つっかれた。
怠い。

今何時かもわからんし。
ホンマしんどいわ。


喫煙所に設置されとる自販機の前で、どれ飲むか少し考える。


結局いつものブラックコーヒーを買って、ベンチに腰を下ろした。


プルトップを開けて、苦味のあるコーヒーを飲みながら煙草を取り出した。

はー…今日何時に帰れるんやろ。

仕事中は時間なんか気にしてへんけど、こう言う風に休憩を入れて緊張の糸が解けると一気に疲労が身体を襲う。


ケータリングの飯も食い飽きたし。


溜め息を吐いて煙草を火を点けながら携帯を開く。

何件かメールが入っとんを一つ一つ確認して、目を細める。


るきから何件か。
結構どうでもえぇ内容やったり写メ付きやったり。

アイツも仕事が忙しいらしいねんけど、マメっつーか、暇っつーか…。
好きやんなぁ、コイツ。

僕こんなにメールばっか送れんわ。


メール画面を消して、るきの番号を呼び出す。
耳に押し当てたら、聞き慣れた自分の声が聞こえて来て眉を潜めた。


『ッ、もしもし…!』
「うわ、早」
『休憩中で外出てて。京さんに電話しようか迷ってた時だったんで。何か京さんから電話くれるとか以心伝心で超嬉しいんですけど!』
「煩い。切るで」
『ちょっ、待って下さい…!』


矢継ぎ早に喋るるきに呆れながら、鼻で笑う。
焦るるきの声がおもろい。

別に用事は無いけど、何と無く。

最近、るきのアホみたいな喋り聞いてへん気ぃするし。


「外まだ雨なん?」
『あー…降ってますね。スタジオに籠りっきりが嫌で出たんすけど、ブーツ濡れるし最悪です』
「アホやなぁ」
『雨なんで、織姫と彦星も会えないっすね』
「は?」
『今日七夕じゃないですか。雨だから星とか全然見えないですけど』
「あー、そうなん」


相変わらずメルヘンな頭ん中で。


『1年に1回だけしか会えねーのに、当日雨とかついてないですよねー』
「知らんわ。どうでもえぇし」
『でも織姫と彦星が会う時に、俺らが会えないってどう言う事ですかね』
「はぁ?仕事やからやろ」
『あはは。ま、1年に1回、この日に会うより他の日にいつでも会える方がいいですけどね』
「…もっと仕事入れといたろー」
『もー京さん意地悪言わないで下さい』


るきの笑った声が、受話器越しに聞こえる。
外歩いとるんか知らん、息が弾んでく。


『じゃ、今年の願い事は京さんとずっと一緒に過ごせますようにって短冊に書いておきますね。笹無いですけど』
「うわ、キモ。ほな僕はるきの願い事が却下されますようにって思っとくわ」
『…京さんて天の邪鬼ですよね』
「何がや。素直な感想やん」
『どこがですかー』


笑うるきの声に、自分の口角が上がるのがわかる。

話しながら吸うとった煙草を、備え付けられた灰皿に入れ捨てた。


願い事なんか意味無いやろ。
願望口に出すよりもそれを叶える為にどうにかせぇや。

お前、昔から僕にくっついて来て離れへんかったんやから。

そう考えたら、るきとは付き合い長い気ぃする。
どんな形であれ。


よかったやん。
叶っとるで。


コーヒーを飲みながら他愛無い話しよったら、喫煙所に薫君が入って来た。


「──ほなもう切るわ」
『あ、はい。またメールします』
「メールしすぎやで。ほなな」
『お疲れ様です』
「ん」


電話を切って、携帯を置く。

向かいのベンチに座った薫君が、煙草を出して咥えた。


「なん、ルキ君?」
「まぁ」
「楽しそうやったやん」
「あ?無いし。何言うとんオッサン」


僕の悪態に、楽しそうに笑って紫煙を吐き出す薫君。

この、何でもお見通しって顔がムカつくねん、ホンマ。


「まーでも、スタジオ入りばっかでしんどいし、たまの気分転換もえぇわな。今日七夕やし」
「七夕関係あるん」
「ん?会えへんから電話でフォロー来たんかと思って」
「そんなんするワケ無いやろ」


電話したん僕やし、って思ったけど余計な事言われるん嫌やし黙る。

残りのコーヒーを流し込んで。


…まぁ、確かに。
気分転換にはなった、な。


七夕とか会う日とか願い事とか、関係無いし。


日常を過ごすだけ、それが当たり前。




20110707



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