幸福日常生活/京流




パソコンに向かって仕事中、ドアの開く音がして振り返ると。
仕事帰りであろう京さんがリビングの扉を開けて中に入って来て。

気付かなかった。

今何時だろ。


「おかえりなさい、京さん」
「…ただいま」


京さんは溜め息を吐いて、俺の後ろにあるソファに腰を下ろす。
座ったまま両手を上げて伸びをする。

首と腰がゴキゴキ鳴った。


…もうこんな時間か。
明日も仕事あるし、寝なきゃな。


「るき、珈琲淹れて」
「ココアでもいいっすか」
「どっちでもえぇわ」
「じゃ、ちょっと待って下さい」


何か京さんも疲れてそうだし。
俺がちょっと甘い物飲みたくて。

立ち上がってキッチンに向かう。

2人分だからそんな量が多くないお揃いの白黒マグカップに牛乳を淹れて。
レンジに入れて温める。


すぐにチンした牛乳に、ココアを入れて掻き混ぜる。


「どうぞ」
「ん。…お前酷い顔やぞ」
「あー…最近仕事忙しくて」


京さんに黒を渡して、自分もココアに口をつけながら京さんの隣に座る。

もう暖かくなって来たけど、こう言う温かい飲み物は身体に染み渡っていい。


テーブルに置いた携帯に手を伸ばして、手に取る。

隣にいる京さんも、ココアを飲みながら携帯をイジってた。


「…京さん、俺またネイル変えたんすよ」
「あー?そうなん?」
「これ。綺麗じゃないですか?」
「…何やキラキラやな」
「派手なの好きなんで」
「そやろなぁ」
「一度やったら癖になっちゃって」


合間に行ったサロンで新しくしてもらったネイルを京さんに見せると、京さんはチラッと見て鼻で笑った。


ココア甘い。
美味い。


「あ、京さん知ってます?」
「何が」
「れいたの鼻に巻いてる布の名前」
「は?知らんし。アイツ何か巻いとったっけ?」
「あ、京さん逆に仕事用のれいた見た事なかったっけ」


そう言いながら自分の携帯のフォルダから画像を探す。
メンバーと楽屋とかで撮ったヤツとか、京さんとか、色んな画像が入ってる。

前無くしたから、まだそんなに集まってねーけど。


その中でメイクばっちりして、ライブ前にれいたと一緒に写メった画像を呼び出して京さんに見せる。


「これです。この布」
「…あー。これがどしたん」
「この布、名前あるんすよ」
「そうなん。どうでもえぇけど」
「何だと思います?」
「…お前って時々、僕の言葉聞いてへんよな」
「え、聞いてますよ。ちゃんと。敢えてです」
「フザけんなボケ」
「ぁいた」


京さんが俺の頭を軽く叩いて来て。
携帯を持つ手で叩かれた所を撫でる。


笑いながら京さんの肩にくっついていって。


「この布はですねー『れいたさん』ってメンバー内で呼ばれてます」
「はぁ、まんまやんか」
「いやいや、この布ありきがれいたなんでこっちの布が本体的な意味です。この人間の方は器です」
「…お前んトコ、えぇ歳やのにガキやんな」
「何かフザけて言ってたら定着しちゃって。面白いじゃないですか」
「別に」
「色んなれいたさんがあるんですよー」


そう言って、邪魔になったマグカップをテーブルに置いて。
体勢を建て直して他の一緒に写メった画像を見せる。

その時に、これは何々がありましたよーとか説明しながら。

京さんは聞いてんだか聞いてないんだかの生返事をしてて。


「あ、これ。スタッフが差し入れしてくれたケーキなんですけど、めちゃくちゃ美味しかったんで。店聞いたしまた買って来ますね」
「食べ物の写メようあるなぁ…」
「見た目美味そうなのとか残しておきたいじゃん」
「はいはい。楽しそうでよかったなー」
「…何か全然よくなさそうなんすが」
「何やねん我儘やなー」
「あっ、でね京さん。これ!こん時にメンバー皆がね、」


こう言う風に、京さんと日常にあった事を何気なく話すんの好き。


幸せ。


何だかんだで、京さんも聞いてくれるから。




20110629



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