皆既日食<睡眠の仕方/京流
よくパソコンでネットとか見たりして。
仕事場にいる事が多いし、家では家事したりしてなかなかテレビ見ねーから。
情報源はもっぱらネットになる。
「京さん京さん、今日は皆既月食があるそうですよ」
「なん、それ」
「皆既月食。月が地球の影に隠れる現象です」
「ふーん」
「凄いですよねー。こっちではあんまり見えないらしいんですけど。また見ましょうよ」
「何で」
「自然の神秘って見るの良くないですか?」
「別に」
「まぁ始まるの朝の4時過ぎなんで、起きてましょうね」
「はぁ?嫌やし眠いやん」
ネットで見た情報では、今日の明け方に皆既月食が見られるらしい。
まぁ皆既食のまま見えなくなるらしいんだけど。
そう言うの見んの好きな俺は、せっかくだから京さんと見たいワケよ。
で、ちょうどお互い仕事終わって家にいる。
今は午前1時過ぎ。
京さんはソファに座って何冊かの勝手来た雑誌を読んでる。
後3時間ちょっと。
しかも、最大に隠れてんのが見えんのは5時過ぎ。
確かに起きてるにはキツい気がする。
風呂上がりで髪を乾かした後、スウェットとTシャツの部屋着のままの京さんの隣に座って。
因みに俺は京さんから貰った白ジャージにTシャツ着て。
片足をソファに乗せて京さんの方へ身体を向けた。
雑誌に視線を落とす京さんの横顔は格好良い。
右耳下に入れてる、小さい刺青が短い髪のおかげでよく見える。
そう言う気付かなきゃわからない所のとか、色っぽい、気がする。
「…何」
「え?」
「見過ぎ。キモい」
「刺青格好良いなって」
「あっそ。キモい」
「何ですかそれー」
笑いながら、京さんが読み終わった雑誌を手に取る。
最近はこう言うのが好きなのかな、京さん。
「あ、京さんこれ格好良いですね」
「どれ」
「これ」
「あぁ、それな───」
ま、俺も興味ある記事だったんだけど。
京さんと雑誌記事について話しつつ、なぁなぁで4時まで起きてよう。
うん。
何だかんだ、話は盛り上がって気が付けば結構な時間。
皆既月食までまだ時間はあるけど。
京さんも口数少なくなって(つっても、いつも俺が喋って京さんが相槌ってパターンも少なくない)俺も眠気が来たなーどうしよーかなーとか緩くなって来た思考回路で考える、と。
左肩に重み。
「……ッ、」
睡魔に忠実に従った京さんが、俺の左肩に凭れ掛かって来た。
一瞬、マジで?と声が出そうになったのを慌てて片手で口を押さえる。
ちょっと首を巡らせると、目を瞑る京さんの顔が見えた。
…疲れてんだなー。
嫌そうにしながらも、俺に付き合って起きててくれるし。
京さんは優しい。
機嫌が悪い時以外は。
俺の方に傾いた身体。
普通にしてると顔は見えねーけど、胸元が呼吸する度に上下に動いて。
可愛い、とか思ったり。
こう言うの超貴重なんすけど。
手、繋いでいいですか。
寝てる京さんの刺青だらけの右手に手を伸ばす。
描かれた刺青を撫でる様になぞって。
右手に右手を絡める様に、京さんの手を握って自分の太股へ置く。
そんな事をしても、京さんは起きない。
余程疲れてんのかな。
無理矢理付き合わせようとして、悪い事した、かも。
文句言いながらも付き合ってくれる京さんの事わかってて、我儘言ったりするけど。
ちょっと反省。
でも、そう言う所が好き。
ぎゅっと京さんの手を握る。
もうすぐ皆既月食が起きると言われてる時間が来る。
けど、左側の熱源を手放せない。
仕方無いか。
皆既月食よりも珍しい、京さんが俺に寄り掛かって寝るっつーモン見えたし。
そっちの方が、よっぽど大事。
もう少ししたらちゃんと起こしてベッドで寝て貰おう。
おやすみなさい、京さん。
終
20110616
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