重ねる月日/京流
あー…すっかり遅くなっちまった。
仕事終わったらメンバーの誕生日祝うとか、毎回やってるし。
最終的にはバカ騒ぎみたいになるから早めに切り上げて帰る予定だったのに。
気付いたら深夜で。
タクシーでに乗って自宅マンションへと帰る。
少しアルコールも飲んだから身体がふわふわする。
気持ち悪くなるよりかはいいけど。
スタッフが麗に用意した大きめのケーキを散々食ったから腹いっぱい。
これこのまま寝たら胃もたれしそう。
鍵を開けて、中に入るとリビングの明かりが点いてて京さんのブーツがあった。
遅くなるから飯無いっつったんだけど、何か食ったかな京さん。
靴を脱いでリビングの扉を開けると京さんはソファに座ってDVD観てるっぽかった。
「京さんただいま」
「…んー…」
「ご飯食べました?」
「うん」
ソファに近寄ると、京さんは背もたれに頭を乗せて両足を立ててだらけた状態で映像を観てて。
テーブルの上にはワインとワイングラス。
珍しい。
最近あんまり飲んで無かったのに。
「京さん何かツマミ作りましょうか?」
「いらーん。お前も飲め」
「えっ、俺今日ちょっと飲んで、もう飲め…、」
「は?」
「………飲みます」
うぅ。
京さん睨むと怖ぇんだよマジ。
カバンをソファの脇に置いて、キッチンでワイングラスを取って京さんの隣に座る。
ワインボトルを持つと、半分ぐらいが減ってた。
少しだけ残ってる京さんのグラスに白ワインを注いで、自分が持って着たグラスに注ぐ。
「…京さんこの映画はどうですか?」
「んー…まぁまぁ。最近おもろいんあんま無いわ」
「最近の映画って興味そそられんの無いっすよね」
「ん」
2つのグラスを持って、京さんに手渡して。
軽快な音を立ててグラスを合わせる。
さっき散々、チューハイやらビールやら飲まされてケーキ食ってって飲み会わせ最悪な中。
白ワインを口に含む。
明日二日酔いなりそー。
京さんは受け取ったグラスを傾けてちびちび飲んでた。
視線はずっと画面を観たまま。
京さん好みのグロい系だけど、途中から観たってわかんねーしな。
だから、京さんの方に寄ってって肩を寄せ合う様にぴったりくっつく。
もう室内でも半袖で過ごしてて、ワイン飲んでたからか温かい。
皮膚から感じる体温に、何か嬉しくて笑みが零れる。
「…何やの。ウザい」
「あは。今日ね、うちのメンバーの誕生日だったんすよー。麗の。あ、ギターの奴ね。ケーキ食ったり酒飲んだり、スタジオなのにスゲー盛り上がって、」
「……」
「もう30になったんだなーって思うと、長い付き合いですよね、メンバーって。それなのに何バカ騒ぎやってんだって話ですけど」
「……」
「自分の中で30歳って大人なイメージなんですよね、男は30からって言うし。そん時が来ても、自分の中ではあまり変わらなくて。イメージと現実は違うんだなって思いますよねー」
「…るきは変わらずアホやしな」
「ひでー。京さんは、20代と30代で何か変わりました?」
「さー…どうやろな」
「あっ、でも京さん昔よりオーラが優しくなりましたよね、少し」
「何やそれ」
今日の麗のバースデーを祝ってたメンバーの様子を思い浮かべながら。
くっついたまま、1人で喋る俺に溜め息を吐いてチラッと視線を寄越す京さん。
いやホント、一緒に暮らして慣れって言うのもあるかもしんねーけど。
昔の誰も寄せ付けないような、睨まれたら殺されそうな、そんな雰囲気は今は全然無い。
時々怖ぇーけど。
年齢重ねていくのって、やっぱり人も変わっていくもんかな。
「人はそう簡単には変わらんやろ。ただ歳重ねていくと、諦めとかそんなん覚えていくだけやで」
そう言った京さんは、残りのワインを一気に飲んだ。
じゃぁ京さんは、何か諦めた事とかあんのかな。
今でも必死に、何かにしがみつく様な。
求める様な姿を見たりはする、けど。
変わった部分と、変わらない部分。
少し身体を起こして、京さんの前へと伸びをして。
お互いアルコール臭い唇をゆっくりと合わせた。
振り払われなかった。
やっぱり、京さんは穏やかになったと思う。
許される、とは違うけど。
俺と一緒にいる中で、京さんの許容範囲は大きくなった。
年齢差は埋まらないけど。
昔の京さんの年齢に近付いたら、少しは京さんの考えに近付けるかな。
噛み付く癖のある京さんのキスは、昔と変わらず大好き。
終
20110609
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