僕を見るその視線A※/京流
顔面蒼白な、るきの顔が近付いて来る。
僕の左腕は、ライブん時の傷跡の上から剃刀の傷が重ねられて。
床にゆっくりと色濃い血液が流れ落ちる。
こんな事しても意味無い。
自分でもわかっとる。
ライブでやるんと、今やるんとでは全然意味合いが違う。
「………京、さん…腕…、」
「…何」
「………」
「………」
低い絞り出す様な声がして、その声の主を睨み付けると口をつぐんで。
なん、その顔。
痛々しい物を見るような目で。
哀れみを含んで。
やめろ、とでも言いたいんか。
僕に意見や出来ひん癖に。
する権利も無い癖に。
呼びつけたんは僕やけど、コイツが僕を見とんがムカついて許せんくて。
何でどいつもこいつも、僕を腫れ物扱うように。
異質なモンでも見るような目で見るんや。
さっき、敏弥に見られた視線が思い出されて。
全身が冷えていくような感覚が支配する。
もう見るな、僕を。
誰も。
「────ッ!?」
衝動的に、右手に持っとった剃刀を握り直して。
血塗れの左腕でコイツの胸ぐらを掴んで。
いきなりの事で驚いた顔した、その目を目掛けて剃刀を振り下ろす。
無くなってしまえ。
そんな目なんか。
「…やっだ…ッ!!」
「……っ!」
見開かれた目に、剃刀振り下ろしたったら。
咄嗟に両腕で庇ったからその左腕を剃刀の刃が腕の皮膚を切り裂いた。
「い゛…っ」
「ッ、何すんのやお前!!」
「ごめ…ッ!!」
その痛みに、僕を突き飛ばしやがったから。
相手の思わぬ抵抗に構えてへんかった僕はよろけてもうて、右手に持っとった剃刀を落とす。
は、コイツ。
僕に何しとんねん。
痛みに顔を歪めて切られた腕を押さえる奴の髪の毛引っ付かんで、謝る声を無視して床に叩き付ける。
腹立つ。
床に倒したコイツの上に馬乗りになる。
「ナメた真似しくさって。お前は拒否る権利なんかないん、まだわからんの?」
「すみま、せ…」
「謝るぐらいなら最初から逃げんな」
「……」
何かを言おうとしたその口は閉じられる。
薄く目を開けて僕を怯えた目で見上げて。
僕が切り付けた所を手で押さえとる中、そこからは血が流れ出とって。
僕の身体の下で、捕らえられて震えとる。
あぁ、そうや。
こんな姿が見たくてコイツを呼んだんや。
鉄臭さが部屋に充満して僕の服もコイツの服も血が飛び散っとった。
「はは、お揃いやん。よかったなぁ、お前。僕ん事真似しとんやろ。なぁ」
「──ッ、」
馬乗りになったまま、顔を殴り付ける。
剃刀どっか行ってもうたから。
顔は止めて下さいお願いします、この台詞を何回聞いたかもわからん。
それでも僕が殴るん止めへんから、腕で顔を庇う。
僕が付けた傷跡が目に入った。
少し血は止まりかけ。
殴っとった手で傷を付けた腕を掴んで、凝固しそうなその傷に親指の爪を立てる。
案外、傷は浅かったらしい。
何やつまらん。
「あ゛ぁ゛ア゛ア──ッ!?」
「煩い」
「ひっ、痛い痛い痛い…ッ」
「煩い言うとるやろ」
「…い゛…っ」
ギャーギャー言うて、僕ん手から逃げようとする奴の頭を一発殴る。
気絶されるんはつまらんけど、騒ぐんも鬱陶しい。
逃げまどう姿は滑稽で笑えるけど。
なぁ、この傷と僕の腕の傷ってどう違うん?
どっちも僕がつけた傷やん。
同情なんかいらん。
嫌悪されるんも嫌。
何でわからんの?
掴んどった腕を離すと床に転がった。
涙目になった目が、僕を見上げて来て。
こんな事されるんわかっとってのこのこ来るんや。
救いようのないアホやな。
そう言えば、今日金持って来てへんとか言うとったっけ。
会うんに金持って来てへんてどう言う事なん。
お前の価値は、金と、性別と、都合えぇダッチやろ。
「───脱げや、お前」
「…え…、」
「脱げ。早よ」
「…は、い」
馬乗りんなった上から退いて、立ち上がったまま見下ろすと。
戸惑った表情をして、言われた事を理解したんかゆっくり身体を起こして。
つたない動きで自分の服を脱ぎ出した。
「トロトロしとんな」
「ッ──!ごめ、なさ…、」
言う事を素直に聞いて、切られて殴られて。
これからされる事なんかわかっとんのに言われた通りに行動する。
そんな姿を見たらイライラする。
さっさとしろ、と言うように身体を蹴る。
唇を噛み締めて、それでも言う通りにするコイツはホンマに──。
馬鹿で惨めで、最高に僕の心を満たしてくれる。
「ッ、は…っ」
「ちゃんと舌使え。どんだけ下手やねん」
「ん゛…!」
「喉開けろ。オラ」
「んン゛───ッ!」
「…はー…」
全裸んなったコイツは床に座り込んで。
大きく口を開いた中に僕自身を突っ込む。
男慣れしてへん舌使いはやっとってイライラするから頭掴んで喉の奥まで突っ込んだった。
苦しそうにくぐもった声。
苦しそうやん。
泣いたらえぇのに。
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