描くヴィジョン/京流
ベランダで最上階からの夜景を眺めながら、携帯片手に相槌を打つ。
時々、母親からかかって来る電話に、素直な感じに受け答え出来る様になったのは最近になってからな気がする。
感謝はしてる、けど放っておいて欲しいとも思う。
ライブには両親共々、観に来てくれてはいるけど。
数年間、部屋に呼んだ事は無いし、呼べない。
一応、京さん名義だったりするしなこのマンション。
母親との電話を終えて、溜め息を吐きながらベランダから戻る。
いくら暖かくなって来ても、夜はさすがにTシャツ1枚だけじゃ寒かった。
室内の温度に肩の力を緩めて、またさっきまでいたパソコンの前に座る。
ソファには京さんが座ってて、資料?か何かに目を通していた。
携帯をテーブルに置いて、煙草を手に取る。
揺らして1本取り出して、火を点けるとゆっくり煙を吸い込んだ。
「るきー」
「え?あ、はい」
「僕ちょぉオフん時に実家帰って来るから家空けるで」
「え、そうなんですか?いつ、」
「んー…多分XX日から」
「珍しいですね、あんま行かないのに」
「やからたまにはなー。帰れ帰れ煩いし」
「あー、俺もそうなんすよ。節目には一応帰ってはいるんですけどね」
「忙しいしな」
煙を吐き出しながら灰皿に灰を弾き、ソファに座る京さんを見上げる。
手に持ってた書類の束を無造作にソファに置いて。
XX日からか。
少しオフ被るかなって思ってたのに、残念。
部屋の模様替えしよっかなー。
もうすぐ夏だし。
つーか京さんの実家とか、俺も行きてぇー。
「…京さん」
「んー?」
「俺も京さんの実家、」
「却下」
「…まだ最後まで言ってませんけど」
「どうせ一緒に来たいとか、そんなんなんやろ」
「まぁ…」
「来てどなんすんねん」
「…ご両親にご挨拶、とか」
「無理。大体何て挨拶する気や。一緒に暮らしてますーとかか」
「…言うの勇気いりますよね」
「当たり前や」
ま、そりゃそうか。
俺ん所もそう言う風に言ったら多分、卒倒するな。
京さんとの関係は悪い事と思っては無いけど、やっぱメンバーと違って打ち明けるのも理解して貰うのも難しい気がする。
マイノリティな分類だし。
京さんから、何か形に残る事がしたいって言ってったらOK貰ったワケだし。
あれから何がいいかとか色々考えて。
やりたい事あるんだよね、俺。
まぁ生涯、京さんと一緒に居る事に対してはやりたい事とか山程あるワケだけど。
ジジィんなっても一緒に住む一軒家が欲しいとか。
2人暮らしで狭くていいから、庭もあって犬とか飼いてーな。
京さんとの将来のヴィジョンはいくらでも想像ついて。
これから想像じゃなく現実にしたい。
京さんとなら、奥さんも、社会的地位も、自分のまだ見えない、これからも見る事がない子供も。
全部全部、捨てられる。
───京さんもそうだといいな。
怖くてそれはまだ聞けないけど。
深く煙草を吸い込んで、灰に煙を送る。
『好き』って気持ちは男女関係無く、胸張って言えたら楽なんだろうか。
でも、言えないからこそ、俺達の様なこの関係は根深い気がする。
「じゃ、京都のお土産買って来て下さいね」
「知らん」
「八つ橋!季節限定のでお願いします」
「やから知らん」
「京ばぁむでもいいですよ。京さんって感じがするんで」
「なんそれ。名前が似とるだけとかそんな下らん理由やろ」
「あはは」
「ほんまアホな事ばっか言いまわんな」
そう言って足で軽く俺の身体を蹴る京さんは、呆れた目で俺を見下ろした。
そんな視線は慣れっこで、実際、この人に呆れられんのも好き。
だって呆れても甘やかしてくれるから。
何だかんだ、京さんは優しいってわかる。
自分の範疇の中に入れた人間には。
そう言うのを感じると、こっちも嬉しい。
「京さん」
「なん」
「俺、前に形に残る物が欲しいって言ってたじゃないですか」
「あー…うん」
「やりたい事あるんですけど、お願い出来ますか」
「時と場合による」
「…お願いします」
「はぁ?やから何やの」
「────…」
日本で俺ららしく、結婚式みたいなのしましょうよ。
終
20110604
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