見えない気持ちの中/京流
今回のライブは都内やったから、自宅に帰って向かい合わせんなってるきが作った飯を食う。
僕が帰る前に作りよったらしくて、家に着いたらほとんど出来とる状態やった。
米と味噌汁とメインに肉じゃが。
何か青菜とか、るきはようマメに作るわ。
「京さん、味大丈夫ですか?」
「んー。いけるんとちゃう」
「よかった。やっぱ圧力鍋って凄いですよね、短時間で出来るし」
「ふーん」
「カレーにするか迷ったんですけど、これから京さん遠征多くなるし、こう言うのがいいかなって」
「……」
るきが喋っとる中、適当に相槌を打ちながら黙々と食べる。
普通に美味い、と言うかるきが作る料理はよう食って来たからコイツが作る味に舌が慣れたんやと思う。
最初を思い返せば、家事のスキルは上がったな。
ライブ終わりやから、飯食う時間も遅い。
別に食って来てもよかったんやけど、何となく。
あー、次は何処やったっけ。
取り敢えず都内や無いから荷造りせなアカンやんな。
めんどいわ。
「あ、京さん今日はパス出して頂いて有難う御座居ましたってれいたが言ってましたよ」
「あぁ」
「実際会って挨拶したかったらしいですけど」
「いらんわ、そんなん」
「でもやっぱり先輩だし、」
「えぇって。楽屋来られる方が嫌」
「…何でですか」
「何でも。ただでさえ挨拶とかかなりあんのに、手間取らすなるきとは家で会うんやから」
「そりゃそうっすけど…じゃ、れいたも家に呼んでよかったんすか」
「えぇんちゃうー。来たかったらな」
「…それはちょっと遠慮してました。プライベートだからって」
「ふーん」
まぁ、そうやろなぁ。
メンバーの家やけど、先輩の家でもある訳やし。
るきの事、後輩やと思った事ないけど。
僕も気分屋やから、帰って来て他人がおったらイラッとしそう。
そん時にならんとわからんわ。
…そう考えたら、るきと一緒に何で住んどんって話やんな。
喧しいし勝手に模様替えするし、時々キレとるしガキやし…。
そんな事を飯食いながら思っとったら、るきが口を開く。
「……って言うか俺だけだとなかなかパス出してくんねーのに、何でれいたが行きたいっつったらあっさり出してくれるんすか」
「…気分」
「じゃ、いつも気分で俺にも、」
「嫌」
「何でですか」
「何となく」
まぁ、るきのメンバーなり何なりが来るんはえぇんやけど。
るき自身が来るんが嫌。
別に僕らの関係をこっちサイド全員にバラしとるワケちゃうし、同じ業界におるコイツが関係者席におったって何ら不思議は無い。
けど、やっぱ皆言わへんけど僕とコイツが一緒に住んどんも、そう言う関係なんもメンバーはわかっとって。
わかっとんのに、薫君以外はほぼ触れへんその話。
るきもわかるやろけど、関係者席って意外と見えるんやで。
やからるきが来て、るきを見られるのが嫌。
特に、アイツには。
「───京さん?聞いてます?」
「あ?聞いとる聞いとる。たまにパス出しとんやからえぇやろ。我儘言うな勝手にチケ取って来とる癖に」
「だって京さん出してくんねーんだもん」
「キモい」
何やまだギャーギャー言うるきを無視して、ご飯を食べ終わる。
るきは喋りまくるから、比較的食うんが遅い。
黙って食えホンマ。
「じゃ、ずっとれいた連れて行きますから」
「何でやねん巻き込むなや」
ま、誰かと一緒に来てくれた方がるき1人で来られるよりマシ。
ライブをるきに見られたくないワケやない、けど。
るき1人やとあからさま言うか、なぁ。
食べ終わったるきを見て、煙草を出して1本吸う。
「じゃぁどうしたらいいんですか俺だって京さんのステージ見たいのに」
「諦めたらえぇんとちゃうー」
「え、京さん俺の話聞いてます?」
「お前こそ僕の話聞いとんか」
「もー」
紫煙を吐き出しながら、不満そうな顔で片付けをするるきに苦笑い。
何やの僕の気持ちも知らん癖に。
一生、コイツは知らんでえぇ事やけど。
「あっ、でもれいたも京さん格好良いって言ってましたよー」
拗ねた顔したかと思えば、次に嬉しそうな顔してライブの感想を話し出す。
コロコロ変わるなー、コイツも。
はいはい、るきが僕を好きなんはよーわかっとるよ。
楽しそうにライブん事を喋るるきを見とると、たまにライブ来さしたってもえぇかなって思うん。
たまにな。
ほだされるんとか、アホらしいけど。
…でもやっぱ1人で来られるんは嫌やな。
そこは遠慮しろ、アホるき。
終
20110602
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