過去の気持ちは偽り無く/敏+京




『もうえぇ、出てけ…!嫌いや!お前なんか!』


泣きそうな顔でそう言う京君の顔。

天の邪鬼な京君と付き合ってたからそれが本心じゃない事もわかる。
昔は本心とは違う事を言う所が可愛いと思ってた。

いつの間にか、それを汲み取るのも億劫になって来て。

俺の気持ちはわかんねーのに、人にはわかって貰おうなんて無理な話だろ。


泣きそうな京君を見ても俺の心の中は冷めて冷静で。
そんな京君を見ても何とも思わなかった。


別れ話をして京君ちから出て、元来た道を歩く。

煙草を取り出して咥え、火を点けた。

煙を吐き出しながら空を仰ぐ。


案外、呆気なく終わるモンだな。


いつの間にか付けなくなったペアリングも、よく使った合鍵も、今は自分の手元には無い。


そうなると、俺と京君を繋いでた物は何だったのかが曖昧になる。

あんなに好きだったのに。
好きで好きで必死になって、一緒にいる事が嬉しくて。

その気持ちが嘘だった、なんて事は無いけど。
こうもあっさりし過ぎてると今までが夢見てたんじゃないかって思う。


「泣いて縋れば、ちょっとは可愛いのに」


煙草の灰を地面に落としながらボソッと呟く。
その言葉に、自嘲の笑みを浮かべた。


プライドの高い京君が、浮気して別れ話をした俺に縋り付くなんて。
そんな事しない。

された所で、俺の気持ちは変わらない。


ただ、優越感に浸るだけ。


携帯を取り出して、薫君のアドレスを呼び出す。


『京君と別れちゃったー。後は宜しくね』


それだけ書いて、送信ボタンを押した。

薫君に全部押し付けて悪いなって思うけど。
京君が頼りにすんのは他にはいない。


ヤるぐらいはいくんじゃねーのって思う。


メールを送信してから、すぐに薫君から着信。
別にメールで書いた通りだし、今は誰とも話したく無い気分だから無視。


それでもしつこく鳴り続けるから、電源ボタンを押して電源を切った。


どうしようかな。
家に帰る気にもなんねーし。

かと言って京君と別れた今、繋がってた女共ももう必要無い気がした。


当ても無く、ただ歩いて行く。


男は、別れた相手の事を美化していつまでも忘れられないって言うけど。


京君の笑った顔。

拗ねた顔。

怒った顔。

嬉しそうな顔。

セックスしてる時の欲情した顔。


全部昔の事。
でも、楽しかった記憶。


これから俺と京君は『メンバー』でも『友達』にも戻る事は無い。


『昔の恋人』として。
いつまでも俺の中でその位置付けになるんだろうな。


これから先、俺と京君は笑い合える日なんて来ない。

それは、京君の言葉と表情でわかる。


俺を、裏切り者って責める視線と、絶望。


別れ話をする前から、京君はあまり笑わなくなったし身体を繋げる事も無かった。


俺が、京君の身体の傷から目を逸らして逃げてたから。


理解して、なんて俺を納得させる言葉を京君が言う事は無かった。


少しでも、お互いが歩み寄れたら。

今とは違う風になっていたんだろうか。


「はは、今更こんな事思っても遅ぇっつーの」


結局、京君は俺の感情よりライブを取ったって事だろ。


小さく笑って、吸ってた煙草を地面に投げて靴裏で踏み潰した。








京君。

京君に言った『好き』も『愛してる』も嘘偽りは無かったよ。


その分、自分を傷付ける京君を見るのは辛かった。


今度は、京君が苦しめばいい。


俺以上に。


大好きだった頃の京君の笑顔が浮かんで消えた。


曇り空。
俺の頬を濡らした。




20110522



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