吐露/京流
久しぶり、とは言えない期間だけど我が家に帰って来てほっとする。
ツアーで全国各地、ホテル泊まりは慣れてっけどやっぱ自分ちが一番落ち着く。
靴を脱いで、無駄に私服やら何やらを詰めたキャリーを玄関から引き上げてリビングへ持って行く。
重い。
取り敢えず洗濯物と、土産買ったのだけでも出しておこうかな。
リビングには京さんが脱ぎっぱなしにした服とか、乱雑にテーブルに置かれた資料とか。
生活感バリバリ。
ま、京さんも仕事とは言え此処に住んでんだから生活感あって当然だけど。
多分キッチンには俺が作り置きした飯食った後とか、洗ってねー食器があるんだろうなって思うと疲れた身体を引きずって帰って来た今は若干ウンザリする。
一応、京さんには今日帰る事をメールしたけど。
京さんの靴もあったし、まだ寝てんのかな。
あの人も仕事の時間バラバラで寝れる時に寝るって人だから。
そんな事を考えながら、バラしたキャリーの中の洗濯物を取り出して洗濯機に突っ込む。
京さんの洗濯物も入ってっけど、ネットに入れなきゃダメな物はなさそうだし。
そのままスイッチを入れた。
今回のライブは反省する点もあったし、自分の中で我慢出来ない物とか、やる気だとか。
そう言うのがライブ中テンション維持出来なかった事に自己嫌悪。
そうなるなら、最初っからやんなって話だろうな。
結構長い間バンドやってて、昔よりかは大人になったって思うけど。
根本的な部分はあんまり変わって無くて、そう言う部分はどう変化していったらいいんだろうか。
静かに音を立てて、回る洗濯機をじっと見つめる。
「………何や、帰っとったんか、お前」
「ッ、…ビビッた。おはようございます」
「んー」
ボーッとしてたから、人の気配に気付けずにいきなり話し掛けられて吃驚する。
声の方を見れば、まんま寝起きの気だるそうな京さんが立ってて。
挨拶をすると、京さんは俺の後ろを通って洗面台の前まで行った。
「京さん今日仕事ですか?」
「うん」
「ご飯何か…」
「いらん。昨日食いに行ったし腹減ってない」
「そうっすか」
京さんは水を出して顔を洗ってタオルで水気を拭くと、歯ブラシを取って歯を磨き出す。
ま、飯とか言いながら食材買ってねーんだけど。
インスタント物とか、簡単なのはあるし。
あ、でも京さんもツアー出るし、あんま食材買ってもなー。
そんな事を思いながら、無言で歯を磨く京さんの背中にぴったりと身体を寄せる。
鏡越しに、京さんの眉が寄せられて『何』と言わんばかりに見られた。
「京さん、俺、」
京さんの体温を身体に感じながら、自分がモヤモヤと思う事を話す。
ライブであった事。
自分の感情がライブ中なのにコントロール出来なかった事。
そう言うのを呟く様に京さんに話す。
こんな失態、この人に話してどうすんのって。
そう思うけど。
許されたいのか。
叱られたいのか。
俺にもわかんねー。
京さんは鏡越しで俺から一切視線を逸らさず、話を聞いてて。
下を向いて歯磨き粉を吐き出して、口を濯いだ。
「…僕は一切、ファンに悪いとか思わんけど。寧ろ僕の世界について来れてへんのやなって思うぐらいで」
「…はい」
「つーか僕はお前んトコのバンドや知らんし」
「……」
「自分のした事は、自分で責任取るしかないやろ」
「……はい」
「ファンに乱されるようじゃ、まだまだやでー、るきちゃん」
「…ですよね」
「僕に言われる事もな」
「わかってます。アーティストとしてじゃなく、ただ1人の人間として甘えたかったんです」
「ガキやないんやから。僕に世話させんなボケ」
「すみません」
そう言って鼻で笑った京さんは、俺の身体を突き放してリビングへと向かった。
その背中を見つめる。
そう、ただ。
京さんに甘えたかっただけ。
尊敬してるDIR EN GREYの京、より。
ただ京さんに。
だって京さんの言葉は、俺の中では何よりも強く、重い。
そして俺の欲しい言葉をくれない京さんが好き。
甘やかされたら、そこで終わりだから。
「あ、大阪のお土産ありますよ、京さん」
「何、寄越せ」
「堂島ロールケーキです」
「…甘」
甘いの好きだろ。
俺も京さんも。
俺に対しても。
終
20110512
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