慣れた日常事/京流
仕事から帰って来て、玄関を開けて後ろ手に鍵を閉めると無意識に溜め息を吐く。
疲れた。
腹減った。
るきも仕事や言うとったから、やっぱコンビニで何か買って帰ればよかったか。
被っとったキャップを脱いで、髪を手櫛で適当に散らしながら重い靴を脱ぐ。
ふと下を見たらるきのブーツがきちんと揃えられとった。
リビングの方も明かりついとるし。
廊下を歩いて、リビングに続くドアを開けるとるきはキッチンで何か作っとった。
「京さんおかえりなさい」
「なん、帰っとったん」
「今さっきですけど。京さん蕎麦食べます?俺腹減って」
「食う。飯食ってへん」
「仕事場で飯出ませんでした?」
「出たけど何や不味そうやったから食ってへん。菓子は食ったけど」
「ちょ、好き嫌いしないで食べて下さいよ」
「っさい。ガキちゃうんやからえぇやろボケ」
るきも仕事行っとったらしいから、スキニーパンツに部屋着の緩いパーカー着とって。
眼鏡掛けとる目が細まって苦笑いする。
ソファにカバンやキャップを投げて、ジャケットを脱いで背凭れに引っ掻ける。
るきは鍋ん中の湯を沸騰させながら冷蔵庫からもう1つ蕎麦が入った袋と卵を取り出した。
「京さん卵は固いのと半熟と生どれがいいですか?」
「あー…今日は半熟。…何これ」
「え?」
入れ替わりに、僕も冷蔵庫を開けて中を物色する。
るきの仕事が詰まって来たら、結構冷蔵庫ん中も物が無くなって来る。
500ミリの烏龍茶のペットボトルを手に取って、目についたヤツを掴む。
るきが蕎麦を茹でながら振り向いて僕の手の中のを覗き混んだ。
「あ、それ一週間限定で出るスイーツのです。前のはあんまり興味そそられなかったんすけど、今回のは美味そうだなって」
「ふーん」
これ食お。
腹減ったし。
「えっ、京さん今食べるんですか?ご飯前なのに」
「腹減ったん」
「俺も一緒に食おうと思ってたのに」
「2個あるんやからえぇやろ」
「だからそれを食後に京さんと…、あぁあー!」
「煩い」
ギャーギャー煩いるきを無視して包装を剥がして蓋開けて、ゴミをゴミ箱に捨てる。
烏龍茶をシンクに置いて、立ったまま一口食べる。
まぁコンビニ商品やなって味がした。
「もういいですけどー。あ、そう言えばポイント貯まったんで、皿貰えたんすよ。皿」
「え?皿?」
「ポイント貯めたら貰えるコリラックマの皿です。2枚分貯めて交換しましたよー」
「ふーん」
冷蔵庫に凭れて忙しなく手を動かするきの背中を見ながら、次々食って行く。
もうすぐ蕎麦出来るっぽい。
手慣れた感じやな。
何かるきがキッチンに立っとんが当たり前と言うか、見慣れた気ぃする。
さっさと食い終わって身体を起こして空をゴミ箱に捨てて、烏龍茶を手に取り一口飲む。
「京さん、もうすぐ出来るんで座ってて下さい」
「ん」
キッチンから少し歩いて、いつも2人が座っとるテーブルへと座る。
「出来ましたよー。夜中なんで、卵とネギしか入れてませんが…」
「えぇよ、もう寝るだけやし」
るきは2人分の器を持って来て、僕の分を目の前に置く。
その後もバタバタ動きながら箸やらコップやら持って来た。
「後、これですこれ。皿!」
「はぁ?」
「これ貰った皿です」
「はぁ」
目の前に座ったるきは、僕に顔が描かれた小さめの皿を差し出して来て。
このシリーズ、ホンマよう見かける気ぃする…。
他の食器は黒か白で揃えられとんのに…何でこれだけ…。
「可愛いですよね」
「あー…」
「まぁ小さめなんでスイーツ用かなと思います」
「…まぁ、えぇんちゃう」
どうでも。
あ、でもこれで朝に出来合いモンのパンとか出るんが無くなるわな。
よかったよかった。
「京さん聞いてます?」
「聞いとる聞いとる。はい、いただきます」
「うわ、聞いてねぇー」
るきを無視して、蕎麦を食べ始める。
温かいし安心する味。
蕎麦とかうどんとか、昔はめっちゃ味濃かったしな。
「もうこの皿使おうとせっかくデザート買ったのに京さん先食うし」
「っさいわボケ」
「コリラックマの皿を使う京さんを見る機会が!」
「死ね」
「あはは。また何か買って来ます」
「ん」
ホンマ、アホな同居人持つと苦労するわ。
誰も見てへんからまだマシやな。
知られたく無いやん。
こんなるきも、許容しとる僕も。
終
20110423
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