純愛と狂気は紙一重/京流
京さんは風呂入ってる時、俺が入ってっても怒らないから時々一緒に入るんだけど。
や、毎回だったらキレられそうだし。
風呂って1人で入りてー時もあるし。
湯船に浸かって、浴槽に凭れる京さんの胸元に背中を預ける状態で2人して風呂に入る。
んなくっつかなくても、男2人なら余裕で入れる浴槽なんだけど。
やっぱ、ね。
京さん作業でスタジオ籠りっぱなしで久々に会ったし。
ちょっとぐらい甘えてもバチ当たんねーだろ。
熱めのお湯に、新しく買ったLUSHの入浴剤を入れてピンク色の湯の中。
2人分の足が見える。
「京さん」
「…何」
「ネットって色んな事件も載ってるじゃないですか」
「んー」
「あぁ言うの時々見るんすけど。昔、愛してた男の人を殺して局部切り取って持ってったって女の人がいて」
「……」
「詳細聞くと男からしたら、ありえねーって思うらしいんですけど、女からすると共感出来る部分あるらしいんですよね」
「…ま、男女の考え方に相違はあるしな。女は感情で、男は身体直結やん」
「確かに」
いつも喋る時って京さんの顔見て喋ってっから。
同じ方向を向いて喋ると顔見えねー。
そんな事を思いながら京さんの肩に頭を預けて間近にある京さんの横顔に視線を向ける。
前よりは少し伸びた濡れた髪が、すげー色っぽいなって思う。
「愛人の立場だったんで、その人は誰にも取られたくないって思って殺したらしいですよ」
「なん、それ。愛人なんやから最初からお前のモンちゃうわって感じやんなぁ」
「あはは。しかも死んでから局部切り取られますしね」
「うわ、痛そう。言うても死んどんか。チンコ切り取ってどなんするん。食うん?」
「めちゃくちゃカニバリズムじゃ無いですか!怖いですよ」
「切り取った時点でもう怖いわ」
そりゃそうか。
京さんに向けてた視線から風呂場の天井を仰ぐ。
「でも局部切り取ったのって、愛した人と繋がってた部分なんで欲しかったみたいですよ。実際、ホテルみたいなトコに入り浸りだったらしいし」
「でも殺してもうたら使えんやん。話も出来んし一緒におる事も出来んしヤれへんし」
「でもそこが女の人の『感情』じゃないんですかね」
「あぁ…」
「実際、京さんに抱かれる立場じゃないですか、俺」
「るきも好きモンやしなぁ」
「…今そんな話してないですよ」
「はいはい。で?」
「え?あ、やっぱ愛した人と繋がってた部分を持ちたいって言うのは、わかるなーって思いましたね」
「…切り取りたいんか」
「いえ、それはやっぱヤれなきゃ嫌なんで。遠慮します」
「アホか糞淫乱」
「ッ、」
京さんの腕が湯船から出て来て軽く叩かれた。
そりゃ、京さんとのセックスは女役やってるけど俺だって男なんで。
身体に直結する快感だって欲しいんです。
それは京さんと、だからだけど。
「でもその女の人は…わかんねーけど…自分勝手ですけど、誰にも取られたくなくて殺したい程、愛してたんですね」
「……」
「色々好きな人は出来るかもですが『生涯、心から愛した人は1人だけ』らしいですよ」
「ふーん」
「まぁ、俺はそれが京さんですけどね!」
「キショい」
「ひでー」
笑って、風呂ん中で身体を反転させて京さんの方を向く。
風呂に入ってリラックスした、気の抜けた表情を浮かべてる京さん。
本当に、今まで普通に女も好きだったけど。
この人は別格。
好き過ぎる。
愛してる。
俺の、生涯1人だけの本気で愛した人。
「京さんは、」
誰ですかって聞こうとしたけど、少し口をつぐむ。
京さんが目を細めて嫌そうな視線を向けて、すぐに逸らした。
俺の後頭部に手を添えて俺の頭を自分の肩口に引き寄せた。
大人しく京さんの新しく彫られた刺青がある肩に顔を埋める。
温かい、けど。
上手く誤魔化したいなら、いつもの憎まれ口で誤魔化してくれればいいのに。
昔の事はわかんねーけど。
何かトラウマあんのは馬鹿な俺でもわかるし。
訂正。
誰かに取られるぐらいなら、殺したいって言うの、少しわかった。
嫉妬に狂いそうになる、身勝手な理由だけど。
つーか、京さんに殺される方がいい。
でも俺はこの人とずっと一緒に過ごしたい。
その中で、誰にも渡さない。
終
20110418
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