夜桜とお前/京流




仕事帰り、たまに待ち合わせしてるきと飯食って。

少し酒が入ったほろ酔い気分の上機嫌なるきが、繁華街にある店を出てから『桜見に行きたい』と言うて来た。


「桜ァー?何で」
「花見です。花見行きたい」
「桜見たってしゃーないやん」
「だって京さん忙しくて昼間花見行ったり出来ないじゃないですか。だから今しかねーなって」
「言うても桜ある場所知らんしなー」


僕も僕で、少し酒飲んで気分がえぇからいつもの様に突っぱねる事はせぇへんけど。

都会やから、夜中やのに店も開いとるし人も多い。

そん中、タクシー拾うつもりでるきと2人歩いとったけど。


桜言うても、花見や行かんし場所知らんで。


「じゃ、少し歩きませんか。酒飲んでるし、酔い覚ましに」
「あー、別にえぇけど。お前も明日仕事あるやろ」
「昼からなんで大丈夫です」
「あそー」


ま、酒入ってちょぉ熱いし、夜風が冷たくて気持ちえぇし。
たまには歩くんもえぇかなって。


行き先も定まらんまま、繁華街から道を外れてるきとダラダラと歩く。

るきは次のライブがどうだの、曲作った時やPV撮影した時の事を僕の隣で話する。
楽しそうに。


「で、メンバーと花見したいっつー話になったんすけど」
「んー」
「男5人で花見しても虚しいだけだって事になって」
「…スタッフやら何やらおるやろ。会社ぐるみでやったら」
「あ、そっか。京さん所もそう言うのあるんですか?」
「…ま、イベント事はいろいろあったりするけど。僕参加せぇへんしなー」
「ちょっとは参加しましょうよ。京さんて参加してないけど賞品もらって来たりしてますもんねー」
「勝手にくれんねん」
「でもアレですよね、花見っつっても桜見るだけーつーか。宴会が目的ですよね」
「あんな外で食って飲んで何が楽しいんやろ」


少し外れた道を歩くと、さっきとは打って変わって人通りも疎らやし、閑散としとる。

コイツってホンマにイベント事好きやなー。

つーかるきのトコってメンバーでよう集まるよな。

…僕んトコも昔そうやったっけ。


若いなぁ…るきんトコ。


「ま、花見ってのは名目で騒ぎたい感じなんでしょうね。俺も今は京さんとだから花見行きてーし」
「ふーん」
「やっぱ雰囲気と言うか、仲間とか恋人とか一緒に見る人が重要で楽しいんでしょうねー」
「……」


チラッとるきの方を見ると、目を細めてそう言うとった。


そう言う風には考えた事無かったけど。


花見て綺麗やとか、しみじみ考えた事も無いし。


昼間は暖かいのに、夜んなるとまだ寒い。
夜風に当たっとると、段々酔いも覚めて来た。


…ら、もう帰りたなって来たんやけど。


「るき、」
「あ、京さん桜!」
「は?」
「桜ありましたよー。やっぱ都会ってわざと道すがらに植えてたりしますよね」
「……」


帰ろ言い掛けたら、るきが嬉しそうに声を上げて僕の腕を軽く叩く。

るきが指差したトコを見ると、外灯の近く。
灯りに照らされた満開の桜の木が見えた。


何や、犬やからこう言う嗅覚は発達しとんか。


見つけてもうたモンはしゃーないから、るきが見たがっとった桜の木の下まで歩く。


人工的に作られた小さい公園と桜。
繁華街の近くやから、人も疎らにおったりする。


そこに1本、少しデカい桜が花を咲かせとった。


「すっげ。綺麗ですねー」
「あー、うん」
「写メってブログにアップしよ」


そう言うて、隣で携帯を取り出するきに呆れる。

つーかマメやな、コイツ。


るきはカメラモードにした携帯を構えて、自分が納得するアングルを探しとんか段々と後ろに下がってった。

アホか。

何や間抜けっぽい。


「京さんそのまま、そのままでお願いします」
「…何やの煩い」


るきが何や言うとった後、シャッター音がした。

るきは嬉しそうに携帯を見ながら、僕ん近くに寄って来て。


「京さんと桜、綺麗に撮れた」
「…見してみ」
「あ、はい。シルエットですけど。逆にそれが綺麗ですよね」
「……」


るきが撮った写メを見ると真っ暗ん中、光に当てられた桜と逆光でほとんど見えへん僕の姿。

るきにしては、確かにバランスようて綺麗に撮れとる写メ。


「京さんと桜って合わないですよね」
「何やとコラ」
「これパソコンに送って待ち受けにしよっと」
「やめぇや、キショいな」
「だって桜、京さんと見えたんですもん」
「やから何やねん。もうえぇわ寒なって来たし桜見たし帰ろや」
「あ、はい。俺は京さんと桜撮れたので満足です」
「早。花見言うてもあんま見てへんやん」
「あは。夜桜綺麗でしたね」
「ん」


携帯を操作してしまうるき。
どっかの大通りに出たらタクシー拾えるやろか。


そんな事を考えながら、桜を仰ぐと風が吹いて花びらが散った。


確かに綺麗やな。

1人やと、見ようとも思わんし気にした事も無いけど。


「うわ、口ん中入りそうになった…!」
「は、間抜けやな」


一緒に見る奴で気分は変わるって。
そうかもしれんなぁ。


手ぇ伸ばしたら届く距離にある、るきのワックスで固められた髪についた花びらを退けたった。


有難う御座居ます、って目を細めて笑うるき。


何かアレや。
花見とかどうでもえぇけど、るきが楽しそうやから。

見守る意味で、しゃーないなって思ってまう。


甘いな、僕も。


るき相手やから、やけど。




20110412



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