狭くて広いその背中/京流




夜ベッドの中。

寝る時間が被ったから、久々に身体を合わせた気がする。


京さんの気分によって翻弄される行為は、久々な事もあって色々と、燃えた。


本当に、京さんとのセックスは好き。


ヤリ終わった後、京さんは煙草を吸うのが癖らしい。
いつもの事。


シーツの上に腹這いになって、肘をついた状態で煙草を吸ってる京さん。

息を整えて、枕に半分ぐらい顔を埋める形でその様子を見つめる。


煙草を吸う横顔も、腕を動かす度に連動する筋肉の形も。
上半身、ほとんど刺青で埋もれた皮膚も。


全部全部、好き。


格好良い。


京さん自身が。


煙を吐き出して、サイドテーブルに置いてる灰皿に煙草を押し付けて火を消す。


その動作で見えた背中の刺青。


もう全て彫り終えた絵柄。

他も増やすって言ってたけど、いつやるんだろ。


そのまま、風呂でも行くのか起き上がってベッドの端に座る京さん。


その背中を見てると、身体を起こしてベッドを軋ませて京さんの背中に手を伸ばす。

そのまま、ぴったりと京さんの背中にくっついた。


お互い素肌で、人肌の温かさが伝わって来る。


「…なん」
「いえ」


京さんは振り払おうとはせず、そのまま。

だから俺も、ぴったりくっついたまま。


程好く筋肉が付いた背中に、顔を擦り付けると京さんの鼓動が近付いて来た。


ほぼ全部に描かれた千手観音の絵柄。
見えない所まで、彫るのがこの人の拘り。


そう言う話を前に聞いた。


けど、この絵柄を彫った意味を聞いて無い。

歌詞に書くぐらい、京さんにとっては意味のある事で。


それを軽く話すような人では無いし。
一生、誰も知らなくていいと思う。


音楽業界に、文字通り身を削りながら駆け抜けて来た京さんの、辿り着いた意味だと思うから。


「…何しとん、お前」
「背中の千手観音さんに、挨拶のキスです」
「何やのそれ。アホか」
「京さんの身体にいる人達とは共存しようかと思って」
「は、昔は入れる度に嫉妬しよった癖によう言うわ」
「今もしますよ」
「ふーん」


柔らかく、京さんの刺青にキスをして。

京さんは振り返らないまま喋るから、京さんの身体ん中で声が響いてくぐもって聞こえる。


嫉妬はしますよ。

どんな意味を持って、ここまで刺青を増やすのとか。

刻まれた文字とか。

痛みを背負って、生きて行く京さんの思いとか。


そんな事が、いっぱい詰まった身体に刻まれた物。

一生、残る。


俺自身は、そんな存在になれねーな、とか。


でも『DIR EN GREYの京』を好きになったワケじゃねーから。


プライベートの『京さん』に刻む存在になりたい。


撫でてた手を京さんの腹に回して、背中に寄り掛かる様にぴったりくっつく。


あったけー。


「はー…お前しつこい。もう触んな」
「やです」
「チッ」


舌打ちした京さんは、離れずにいる俺の腕を引き剥がして。
振り向き様にそのままベッドに押し倒された。


京さんの顔を見上げる形になって、彫られた死神が視界に入る。


「はい、終わり。僕もう眠いねん」
「……刺青入ってても、皮膚の手触りって綺麗ですよね」
「ウワベだけに描いとるワケちゃうからな」
「京さんの刺青、好きなんです」
「あっそー」


呆れた顔で、俺を見下ろして。

シーツに縫い付けられた手首を離されて京さんはさっさと身体を起こす。


風呂入んのかな。

俺も入りてー。


一緒に入ってもいいっすか。


そう思いながら身体を起こして、寝室から出て行く京さんの背中を見つめる。


背丈が変わらない、狭くて小さい背中。

けど、何よりもデカいその存在感。


背負った物の意味は本人だけしか知らなくてもいい。


俺が嫉妬なんかする域じゃねーのはわかってるから。


ただ少し寂しくなんのは俺の身勝手で。


殴るのでも犯すのでも。


京さんが思う事、昇華の仕方。
全部が俺に向いてくれればいいのにって言う。

そんな我儘。




20110411



[ 104/442 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -