虚像と現実のギャップ/京流
明日は昼から仕事に出ればえぇから、今日は買って全然観てへんDVDでも観よかなって思いながら風呂から上がる。
髪を拭きながらリビングに来て、ソファに座って拭いとったタオルを背凭れに引っ掛ける。
定位置になっとる、るきのパソコンが目に付いて。
その隣にある黒い紙袋が目に入った。
何やろ。
朝には気付かんかった気ぃする。
何と無く気になって、その紙袋に手を伸ばすと意外と重い。
中身見ると雑誌と…何やこれ。
大きさから言うてDVD?
多分るきが、自分が載っとる発売する雑誌や出来たDVDを事務所から貰って来たんやろな。
るきのライブはたまに観に行ったりするし、DVDもたまに観たりするけど。
新しいん出たんや。
「………」
何となく観たろってパッケージを破り、思って立ち上がってDVDをセットする。
またソファに座ってテレビの電源を入れて再生ボタンを押す。
暫くしたら映像が映し出されて。
時々観る、ライブ用のるきが出て来た。
後輩バンドとしては興味が無いけど、るきのバンドと思って観たら楽しめへん事も無い。
「…京さんただいま…、って何観てるんですか!」
「おーるき。何やあったから観て欲しいんかなって思って」
「いえ、貰ったんすけど片付けるのめんどくさくて…あー、も、恥ずかしいんで観ないで下さいよ」
「お前やって僕ん観るやん」
「そりゃ…そうですけど…」
仕事から帰って来たるきは、仕事行っとった筈やのに何やばっちりキメた服装で。
サングラスを外して、画面に映る人物と同一とは思えへんぐらい、アホ面晒して苦笑いする。
「京さん飯は?」
「食ったけど、ちょぉ腹減ったから何か作って」
「あー…お茶漬けでもいいですか?もっとガッツリした方が、」
「や、茶漬けで」
「わかりました。多分鮭を冷凍してたんがあったんで。俺もちょっと腹減ったし」
るきの声をBGMに、ソファから振り向いてキッチンに視線をやると。
帰って来た格好のまま、手慣れた手付きで冷凍庫から何か取り出してレンジに入れて…って一連の流れをこなす。
るきと一緒に暮らして、家事全般をマメにこなするきは慣れた感じで。
垂れ流しにしとる、かっこつけた歌い手のるきからは想像出来ひん姿。
でも僕には、こっちの家におるるきのがしっくり来る。
またテレビ画面に向き直ってるきのライブDVDに目をやる。
メイクして、ヘアセットもして、デスボでファンを煽るるきの姿。
何つーか、詐欺の領域やんな、この顔。
「────…あまり真剣に観られると複雑なんですが」
「や、ホンマにこれるきなんかなーって」
「どう言う意味ですか。はい、鮭茶漬けです」
「ん、どーも」
「格好良いでしょ、俺」
「自分で言うんか」
「そりゃそうです」
るきから綺麗に具を盛られた茶漬けと箸を受け取って。
るきも同じの自分用に作って、僕の足元に座る。
テレビ観る為か、眼鏡を掛けて。
ま、自分でかっこえぇって思っとかなファンの前に立つなって話やんな。
茶漬けに口を付けると、身体に温かさが染み渡った。
ちょうどえぇ味付けで、美味い。
「…お前ってライブ中と普段全然ちゃうよな」
「それは京さんも一緒ですよ」
「化粧詐欺としか思えんやんなぁ…」
「ちょ、そんな染々と言わないで下さい」
「ちょぉ、お前、化粧して帰って来いや」
「は?え?マジすか?」
「うん」
「…そりゃ、雑誌の撮影ありますし、サングラス掛けたら帰って来れますけど…笑いません?」
「わからん。笑うかも」
「えぇー」
「何やお前、僕の言う事聞けへんの」
「……聞きます。いい子なんで」
「やから自分で言うなって」
笑いながら、少しずつ茶漬けを食べていく。
るきはちょっと府に落ちひん感じの表情で。
何やあまりにも映像と実物が違い過ぎて。
日常に、非日常のるきやったらどんなんなんやろって、ちょっと興味出て来たから言うてんけど。
眼鏡を掛けて、茶漬け食いながら自分のライブDVDを観とるるきのギャップに笑えた。
ある意味二重人格。
かっこえぇよ、普段のるき見とるから尚更な。
調子乗るから言わんけど。
終
20110407
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