手作り/京流
るきからのワケのわからんメールが来とって、無視って夕食時間ぐらいに帰宅。
いつもいつも下らんメールばっか送ってくんなって思うけど、別に強く言うてやめさそうとは思わん。
玄関の鍵を開けて、るきの靴があるのを確認して自分の靴を脱ぎよるとキッチンから『おかえりなさーい』と間抜けな声。
…声だけかい。
何しとん、アイツ。
キッチンから何か物音するから、晩飯でも作っとんかと思って覗いてみた、ら。
「…何しとん、お前…」
「あ、京さん!もうちょっとご飯かかるんですけど…待ってて下さい」
「うん。だから何しとんねん」
何かキッチンが粉だらけなんやけど。
そんで食材?とかバラバラに散らばっとるし、るきがテーブルの真ん中で白いモン伸ばしとった。
また何か一から作っとんか!
もうアホな事やめぇや。
お前仮にもバンドマンで主婦ちゃうやろ。
何処の暇人や!
どんだけ暇なんやお前は!
ハマったらトコトン突き進むコイツって意味わからん。
「今日は手作りピザです!」
「ふーん。やから買ったら」
「前の強力粉ありましたし、手作りが美味しいですから!」
「…あ、あの変なメールこれか」
「はい。京さん返信無かったんで…どれが好きなのかわかんないんで両方…」
「へー」
メールて『シーフードとサラミどっちがいいですか?』だけやったやん。
主語を書け主語を。
頭弱い奴やな。
るきは何か丸く伸ばした白いモンの上に、真剣にイカやら海老やら乗せとった。
それがシーフード?
もう一つの丸いモンの上にはサラミとか玉葱とかピーマンとかチーズとか乗っとった。
意外とデカいのに2種類作るんや…まぁ食えんかったら、るきが食うやろ。
え、そしたらまたコイツ太るな。
よう自ら太る様なメニュー考えるなぁ…感心するわ。
「お前…また太るで」
「太りません」
「腹とかヤバいで年齢考えぇや。夜にようそんなん食おうと思うわ」
「…京さんも一緒に食べますから!」
「アホ。僕とお前の身体一緒にすんな」
「京さんの身体格好良いですもんね!」
「………」
コイツは何でこんなアホな思考回路しとんやろ…。
呆れて溜め息を吐きながら上着をソファに投げて冷蔵庫を開ける。
自分一人で住んどった頃には考えられへん程の食材。
コイツってそんな料理好きやったっけ?
腐らすんちゃうやろな…とか思いながら水を取り出して飲みながら楽しそうにチーズ振り掛けよる、るきを見た。
まぁ、本人が楽しんどんなら…えぇか。
「京さんもチーズ乗せます?」
「何でや」
「楽しいですよ!」
「嫌やアホか。さっさぁ作れ」
「楽しいのにー…」
「知るか」
何かまだブツブツ言うとるるきを無視って、キッチンに立ったままるきを観察。
煙草を取り出して一本吸う。
るきは何かオーブンの温度調べよったり。
煙を吐き出しよったら「灰が散る」とか何か言うとったけど、無視。
「…お前って料理好きやっけ?」
「え?」
「何かようやりよるから」
「別に好きとかじゃないです」
「ふーん。なら何でこんなん作るん」
「京さんと食べるからです!」
「…あっそ」
「京さんと食べるんでしたら、他人が作ったのよりも俺が作ったの食べて欲しいんで!」
「………」
静かに紫煙を吐き出しながら、るきのいつもの如く頭のいたなる発言を聞く。
慣れたけど。
ホンマは我儘で我が強いんも、知っとるけど。
僕に対する異様な独占欲と嫉妬心も。
自分の中を曲げてまで『僕の為』に必死んなる、るきは可愛いけど。
アホやけど。
うん、アホや。
ピザ2枚オーブンに入れて(今気付いたけど、いつ買ったん)温度と時間調節して。
後は焼くだけらしい。
るきは荒れ果てたテーブルを片付け始めた。
こう言う時は綺麗好きでよかったわ、コイツ。
そう思いながら煙草をシンクへと投げる。
「あ!京さん灰皿に捨てて下さいよ」
「知らん。腹減ってんけど。早よして」
「焼けるまで待ってて下さい。もうすぐです」
「…もう買ったら早いやん」
「…手作り派なんです」
まぁ晩飯にデリバリーのピザとかむつこいモン、いらんけど。
るきが作らな食わんで。
終
20090305
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