君との空間/敏京




「京君ー」
「なん、僕眠いねん」
「休憩中なんだから構ってよー」
「休憩中やから寝るんやろ」
「俺つまんねぇ」
「…他の奴らに構ってもらえ」
「皆買い出し行っちゃった」
「………」
「あ!寝んなよ京君!」


もうー敏弥がうっさい。
眠いのに何なん。
ほなら一緒に買い出し行けばよかったやん死ね。

スタジオの隅のパイプ椅子に座って、目ぇ瞑る。

ずーっと歌詞書いとったからしんどいねん眠いねん。
つーか新曲なんやから、お前はベース練習しとけ。


無視しとったら敏弥は諦めたんか知らん、離れた気配がしたから諦めたんかと安心。
浅く腰掛けて腕組みして、寝る体勢。
休憩そんな無いけど、まぁちょっとでも寝れるし。

…って思って意識が遠退いていきよる途中。


「…じゃ、京君が寝れるように子守歌を歌ったげるね!」
「……」


何や諦めてへんかったらしい敏弥が、ベースを軽く鳴らす音をさせながら近づいて来て、眉を潜める。

重低音が鳴り響いたかと思った、ら。


「ねんねーん、ころーりーよー、おころーりーよー……あれ?この続きなんだっ…」
「じゃかぁしぃわぁあッ!!」
「え、京君寝てなよ。俺は子守歌歌ってるから」
「寝れるか!ベースと敏弥の音痴な歌のコラボって最悪やん!」
「えー…これでも頑張ってんだけどなぁ」
「何処がやねん」


何か…子守歌を歌う敏弥が痛いし。
音痴なトコが痛いし。
全部が痛い。
敏弥って痛い。
もうアホやん。

アホさ加減に呆れて目ぇ覚めてもたわアホ敏弥。


「ちょぉベース貸せ」
「ん?弾くの?」
「んー…。ようわからんけど」
「此処をね、こう押さえて…」
「はぁあ?」
「や、だからね」


気紛れで敏弥のベースを受け取ると、構えてみる。
ちょっとはな、出来るねん。
ちょっとは。

でも敏弥の説明聞いてもようわからんかったから、眉寄せて聞き返したら、敏弥が僕が座っとる椅子の後ろに回って来て。
僕の指ごと一緒に弦押さえて来た。
でもやりにくいねんけど。


「敏弥ようこんなん弾きこなすなぁ」
「俺は歌え無いからね。それぞれ役割があんじゃん」
「まぁ、せやな。敏弥の歌酷かったしな」
「ちょ、そんな酷くねぇだろ」
「耳腐るか思たわぁ」
「酷ぇー」


ベース弾くんはもう諦めて、背後に回っとる敏弥を顔を上げて見上げた。
僕の顔を確認して、目を細めて笑う。
その顔が近づいて来て、キスされるって思ったから手で押さえようとしたけど。
敏弥の指が僕の指押さえ付けとったから無理やった。

ベース持ったまま。

しゃーない。
敏弥の癖に生意気な事しやがって。


「……皆帰って来たらどなんすんねんアホ」
「大丈夫だろ。皆、俺らの関係知ってんじゃん」
「せやけど…」
「いいじゃん。せっかく2人きりだし京君と。構ってくれんの嬉しいんだもん」
「…不可抗力やし」


キスした後、めっちゃ笑顔の敏弥に呆れつつ、溜め息を吐いた。
ちょっと力込めたら、敏弥の指なんか簡単に外せるけどな。

敏弥に対する感情が、こう言う時に本気で拒否る事が出来んらしい。
まぁ…一応、好きやし。

そうして、持っとったベースを後ろの敏弥に押し付ける。
飽きた。


「もういいの?」
「ん。やっぱ歌う方がえぇ」
「俺も。ベース持ってる京君も可愛かったけど、やっぱ歌ってる格好良い京君、好き」
「可愛い言うなボケ」
「いいじゃん。好きだもん」
「理由になってへんし」


呆れながら煙草を取り出して1本咥える。
まだ背後におる敏弥は、いつもみたいにくっついて来て。
いつもやからって気にせず煙草吸っとったら。


「ただいまー……お前ら、やから場所を考えろ」
「あ、皆おかえりー」


チッ。
敏弥との関係が当たり前過ぎて、場所を時々忘れる自分に舌打ち。
皆に見られたやんけ!

買い出しに行った3人の視線を痛いくらい感じるのに、僕にくっつく敏弥は離れる気配無し。

ホンマこいつ嫌や。


「離れろボケッ!」
「痛ッ!…もー皆帰ってくんの早すぎ!」


敏弥の腕をバシバシ叩くと、渋々と離れる腕。
あぁー、不覚。

敏弥との関係が当たり前になった事が。

嫌いでは無いけど。




20090227


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