節分の食べ物/京流




深夜手前の時間。
仕事で疲れた身体を引きずりながら自分の部屋の扉の鍵を開ける。

腹減った…。

るきのブーツを目で確認して、その隣に自分の靴を脱いで上がると、僕の帰った音を聞き付けて出迎える、忠犬。
もとい、るき。


「おかえりなさい京さん!」
「腹減った」
「ご飯出来てます」
「ん」


上着脱いでるきに渡すと、ソレを受け取りクローゼットに片しに行くるき。
そのままキッチンへと向かうと、2人分の飯が並んどる。


「何やお前食ってへんのか」
「あ、はい。京さんと食べたかったんで」
「ふーん。で、これ何?」
「え?」
「何この巻き寿司。丸々一本やん。切れや」
「今日は節分なんですよ!」
「あ?そうなん。やから何」
「節分の日は太巻を恵方の方角を向いて丸かじりするんです!」
「うん、わかったから。早よ食べやすいように切れ」
「京さん話聞いてました!?縁起物ですから切っちゃダメなんですよ」
「お前こそ僕が切れ言うとんのがわからんの。しかも何やねん巻き寿司しか無いやんけ」
「インスタントのお吸物があります」
「……手抜きやん。巻き寿司2本とかもう何なん…」
「…巻き寿司に合うオカズが思いつかなかったんです」


もー…何なん。
腹減っとるから怒るんも怠い。
早よ食って寝たい。

言い合うんもめんどくなって、切れと言わんばかりに無言で僕の分の巻き寿司が乗っとる皿を指で押す。
るきは納得いかん様な顔しくさって皿を取り、シンクの方へ。

何やねん。
僕に文句があるんかコイツ。

取り敢えず椅子に座ると巻き寿司2本分を切った皿が僕の前に差し出されて、ポットの湯で作った吸い物出して来た。

何でこんな巻き寿司ばっか…まぁもうえぇけど。
腹減ったし。


「……お前それ丸々1本食うん」
「え、そりゃ食べますよ。縁起物なんで。無言で食べなきゃダメなんで、話し掛けないで下さいね」
「ふーん」
「いただきます」


お吸物を一口飲んで、切られた巻き寿司を食ってく。
…と、るきが変な方向向きよった。
巻き寿司持って。
何がしたいん…。


「おい、何しとん」
「…え?」
「アホな事すんなや」
「いや、だって今年は東北東の方角に向いて食べなきゃダメなんですって」
「あっそ…もうほんま、お前アホやろ」
「違います!節分はこうなんですって!」
「はいはい…」


もう何か嫌やコイツ…。
そんなんどうでもえぇやん普通に食えや。

つーか、巻き寿司ばっか食っとったら飽きて来た。
まぁ腹に溜まれば何でもえぇか。

腹も起きて、るきをチラッと見ると何や横向いて太い巻き寿司丸々食っとった…アホや…。
お前…それファンに見せたらどうなるん…いつもかっこつけとる癖に。


話し掛けんなとか、偉そうな事言うとったなコイツ。


「るーきちゃーん」
「………」


もぐもぐ食べながら僕の方に視線だけを寄越するき。
返事せぇよこのアホ。


「んなデカいモン咥えて、美味しいん?」
「……ッ!」
「お前淫乱やからなぁ…もっと奥まで咥えぇや。僕のとどっちが好きなん?ソレ」
「………」
「あーぁ、でもソレやとるきちゃんの大好きな精液は出ぇへんで」
「……ッ、あ"ぁ"ー!京さん何言うんですか!親父発言しないで下さい!」


ニヤニヤしながらからかっとったら、我慢出来んくなったるきが食べよる途中で叫んだ。
は、もう降参かい。


「何言うとん。僕の年齢知っとるやろ」
「…そうですけど」
「ところでお前、食べる途中で喋ったらアカンのちゃうん」
「あぁッ!も、京さん!」
「僕の所為ちゃうしー」


何か騒いどるるきを無視してお吸物を飲むと、もうちゃんとテーブルに向き直って寿司食っとった。
最初からそう食えばえぇやん。


「せっかく縁起物だったのに…」
「何やお前そんなモン信じとん?」
「んー…イベント事ってしたいじゃないですか」
「へー」
「あ、豆も買ってるんで、後で豆まきしましょうね!」
「めんどい。部屋汚れるやん」
「ダメですか?京さんが鬼とか!似合うと思うんですけど!」
「…あ"ぁ?お前、僕に豆ぶつける言うんか」
「…いえ、無理ですスミマセン」
「は」
「…なら、歳の数だけ食べますか?」
「どっちでもえぇけど」


巻き寿司全部食い終わって、煙草出して一服。
つーか、食べにくいんはわかるけど、自分が買ったんやから全部食えよ、寿司。

でももう、るきの興味は豆になったらしいて、買ったらしい豆の袋を出して豆を数え始めた。


ほんまコイツあほ。


「京さん!はい、32粒!」


めっちゃ笑顔なるき。
ま、かわえぇけど。
アホやけど。




20090203


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