闇に咲き誇る花



薄桜鬼・原田左之助




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「よぉ」


「…今晩は」


襖を開けて入ってきたのは見知った顔。長髪で端正な顔のつくりをしている。新撰組幹部の原田様。私の上客だ。花魁となって日は浅くないが、初めて出逢った私に何も求めないお客様。


今日も入ってくるなり窓際にどっかり座り込み、窓の外を眺めている。たまに現れ、窓際に陣取って酒を呑み、少し話してまたな、と帰って行く。恥ずかしい話指一本触れ合った事もない。原田様の心の内が読めず、どうしていいのかもわからず酌をしてるうちにいつも帰ってしまわれるのだ。


でも今日は違った。ひといきに酒を飲み干し、外に出るぞ、と言って立ち上がった。


「店の主人には許可をとってある。今日だけだってやたらに念を押されたけどな。今日は祭りだろ?おまえもたまには外に出ないとな」


外で祭りがあるなんていうのも初耳だ。ここにいるとお客様からしか情報が入らないし祭りだなんだという話をしてくる人も居ない。大概皆話すのは口説き文句か自分の武勇伝、そして噂話くらいなものだ。


戸惑いながらも先に進む原田様について外へ出た。一瞬手を引いて下さったら、と思ってしまったけれど言えるはずもない。


いつぶりかも解らない外の世界。監視の者も居ない。私は昂揚していた。どうしてこんなに目をかけてくださるのかとんと解らないが、このまま連れ去って下さったら、と厚かましいことまで少し頭をよぎった。


「始まるな」


原田様の言葉とほぼ同時に一発目の花火が上がった。原田様が連れてきてくださったのは屋台ではなく河原。人はまばらなのに花火が大きく見える穴場だ。花火なんて久しぶりで思わず歓声を上げてしまった私に原田様は微笑んでくれた。部屋で逢う時より、少し緊張せずにいられる気がする。


そしてしばらく黙って二人で花火を見上げた。原田様は酔ってからいらっしゃった時はよく話してくださるけどそんなに普段は多弁ではない。私も自分からはあまり話さない。いつもなら考えて何か話し掛けたりしていたけれど、今日は話さなくてもいいと思えた。大きな花火と心地よい風、隣には原田様。他に何を求めるものがあるだろう。


「なあ」


「はい」


「花火見てろよ」


話し掛けられてつい原田様のほうを向いてしまったけれど慌ててまた花火を見上げた。せっかく連れてきて下さったんだからまばたきも惜しんで見ていたいのは確かだ。


「花火、綺麗だよな。好きなんだよ昔から。でっかく咲いてぱっと消える。そんな風に生きていきてえと思ってた。昔からずっとな」


大きな花火から小さな花火が集まったようなものに変わった。これも美しい。


「俺な、お前に惚れてんだよ」


突然の言葉に思わず原田様に全力で振り向いてしまった。原田様は花火を見上げたまま。照らされた横顔が信じられないほど美しい。


「でも俺は新撰組で生きて、死ぬと決めてる。明日も知れない身なんだ。だからおまえには何も言わない、言えないって思ってた。つい言っちまったがな」

苦笑する原田様に何と言っていいのか解らない。この想いをどう伝えたらいいのだろう。それに伝えてもいいのだろうか。


「おまえを身請けてやることもできやしねえ。おまえを一生守ってやると言いたいけど言えねえ。ろくでもない男なんだよ」


「そんなことありま」


「でもおまえに惚れてる」


私の言葉を遮り、こっちを見詰めた。いつもよりすぐ近くで見る原田様に完全に目も心も全て奪われてしまう。花火は音すら耳に届かない。


「だから覚えていて欲しい。俺と言う男が居たこと。生きていたこと。ほんの短い時間かもしれないがでっかく咲いてみせる。だから、覚えててやってくれよ。それでたまにでいいから思い出してくれな」


いつもの原田様の調子に戻った。でも私はいつものようには返事が出来ない。何故だか涙が溢れて止まらないのだ。花火を見ている原田様に悟られたくない。小さく深呼吸をする。神様お願いです。少しでも早くこの涙を乾かして下さい。


「なら私はその花に少しでも近づけるよう高く飛ぶ蝶になります。少しでも、少しでも原田様のお傍に…」


何とか声を震わせずに済んだ。優しい微笑みでこちらを向いた原田様の顔で視界が埋まった。とてもとても短い口付け。それを合図のように私たちは立ち上がった。















それきり原田様はぱたりと現れなくなった。他のお客様方の噂話で新撰組幹部の一部が居なくなっただの屯所を移しただのと聞いたが真偽は解らないし、考えようともしなかった。あんなに眩しく大きく咲く人だもの、またお目にかかれるはず。


ただ飼われた箱の中でゆきたい場所もなく飛ぶだけの蝶だった私に目標をくれた。高く高く飛んで、また巡り逢いたい。きっとまた逢えた時にはあの誰よりも眩しく輝く笑顔を見せてくださるだろう。


それまではただ、ただ想いを馳せるだけ。あのかたが望む場所で望むように咲き誇ることができるようにと。











fin.








Always*Alrightのアサさまから頂いた相互記念リクのお話です★左之さんと花火ということでしたが…思いのほか暗い話になってしまいすいません(´;ω;`)これからもよろしくお願いします!



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