変わりゆくもの。






薄桜鬼*斎藤一






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「もうっ!一さん!!」


勢いの良い音で襖が開けられる。聞き慣れた声。もっともこの家にいると聞こえるのはこいつの声だけだ。


「何だ」


「何だじゃないです!何ではこっちの台詞です!何で昼餉の支度がしてあるんですか!」


「もうすぐ昼餉の時間だからだがそれがどうした」


こともなげに言う俺にさらにあいつは腹をたてたようだ。


「わたしの料理が不味いのは解っています!だから今修業中なんですから一さんは食事の支度をしないでくださいって何度もお願いしたじゃないですか!」


一息にまくしたてると流石に疲れたらしく、俺の目の前に腰を下ろした。


「…剣術にも見取り稽古があるように、料理もただ闇雲に作ればいい訳じゃない。人の作った物を食して学ぶのも」


「闇雲になんて作ってません!一さんからしたら不味いのかもしれないですけど私からしたら慎重に吟味して作ってるんです!!」


言葉を遮ってまで抗議をしてきた。今日は余程腹を立てているらしい。


ああ言えばこう言うんだから敢えて黙っていることにしよう。読みかけていた書を手に取ると


「話にならないって思ってませんか!?」


……今は何にでも食ってかかりたいらしい。


「そんなつもりはない。そう思わせたなら悪かった」


そう口にすると思わず自嘲してしまった。自分にさして非がなくこんなに理不尽に責められているのに素直に謝罪できる自分に。


いつから俺はこんな風になったのだろう。


「お友達に習った献立で作りたかったのに…せっかくさっき復習したのになあ」


ぽつりと呟いてうなだれてしまった。さっき。


「先程部屋を覗いた時に忙しい様だったから食事の支度をしたんだが…献立の復習をしていたのか」


部屋を通り掛かった時なんとなしに目をやると机にかじりつき何やら必死に書を読んでいるようだった。だから勝手と承知で昼餉を簡単に用意したのだが。


「そ、そうだったんですか!すいません!」


「いや、俺のほうこそ済まない。…夕餉を楽しみにしている」


お互いに頭を下げ合う形になってしまい気恥ずかしくなったのかやっとあいつは満面の笑みを見せた。


その笑顔を見て再認識した。俺が相手を思いやり謝罪をするようになったのも、楽しみだなんて素直な気持ちを口にできるようになったのも。


全部、こいつを好きになってからだと。


「じゃあ楽しみにしていてくださいね!昼餉を温めてきます。実は一さんのお味噌汁が大好きなんで嬉しいです」


屈託のない笑顔を見せて、入ってきた時と同じ様に賑やかに部屋を出て行った。


いつもそうだ。初めて会った時からずっと突然に現れて突然に居なくなる。


傍から離れて行った時に沸き起こるよく解らない感情。何とも言えないが気持ちが悪い。居心地が悪くて落ち着かない。


その感情を消したくて、いつも傍に居て欲しいと伝えたらあいつはいつもの笑顔で頷いてくれた。


それから、いつもあいつは俺の傍に居てくれる。口煩く騒いだり、泣いたりもするがあの嫌な感情が再び沸くことはなくなった。


そして、煩く言われるのもさして嫌とは思わない自分にも気づいた。あいつには驚かされてばかりだ。どんどん俺を引き出していく。


どんな俺もあいつは受け入れてくれるから、素直に言葉にすることができる。変化も、悪くないものだと思えた。


暫く色々物思いに耽ってしまったので、そろそろ昼餉かと立ち上がろうとするとまた襖が開いた。またも賑やかに。


「よお」


「……副長」


意外な人の登場に少し面食らう。よく見ると副長の後ろには総司や原田さん、いつもの幹部連中がいた。


「…どうしましたか」


副長の手には昼間から一升瓶。嫌な予感がする。その予感を見抜いたかのように副長が不敵に笑った。


「結婚の祝いだ!今日は呑むぞ!!」


よく見ると一番後ろにはあいつの姿が。また満面の笑みを浮かべている。それを見て覚悟を決めた。


今日は長い一日になりそうだ。














fin.





愛する姐御に捧ぐ。移り気なところも厨二なところも愛してるよ!これからもネットstk\(^o^)/