贈り物 | ナノ



「聞いてよ名字さん!!ゆっきーったらね!」

「うんうん」


私は、楽しそうに話す橘君の声に耳を傾けていた。
橘君とは別のクラスなんだけれど、このクラスの友達に用があってやって来て、自分のクラスに帰ろうとしたときに橘君につかまったのだ。


「でさー、授業中ゆっきー寝てるから、オレ当てられても助けてくれないんだよ?!」

「それは大変…」

「ほんと大変!それにさ、ゆっきーは授業中居眠りしてても怒られないのに、オレが寝てると怒られるんだよ?!これって差別じゃね!?」

「う、うん…そうだね」


橘君の勢いがすごくて、ついていけなくて少したじろぐ。
自分は別に暗いわけではないけど、橘君みたいに元気一杯という性格ではないからガーっと来られるとどうしたらいいかわからなくなってしまう。


「名字さんが隣ならいいのになー」

「わ、私?私なんかが隣じゃ、つまらないと思うけど…」

「そんなことないってー。名字さん真面目だし、オレの話だってちゃんと聞いてくれるし、それに可愛いし!」

「か、かわっ…!?」

「そういう反応するところとかね」

「ゆ、祐希くん!?」


いつの間にか祐希君が橘君の後ろに立っていて、私はつい驚く。


「そんなに驚かなくても。だって俺もこのクラスだし…」

「あ、うん…そうだよね。ごめん」


素直に謝ると、祐希君はそんなに気にしてないから大丈夫、と返してくれた。


「隣の席に名字さんがいたらいいよね。ゆっきーもそう思うでしょ?」

「あーうん。まあ千鶴と比べたらね」

「なんだと!」


橘君が祐希君につかみかかろうとするけれど、祐希君はそれをさらりとかわしてしまう。


「あーもう!名字さん!」
「わっ」

「名字さんは、俺の隣でもいいよね!?」

「そ、その…」


橘君がいきなり手を掴んで、そう懇願する。
橘君は気づいてないみたいだけど、私は二人と違うクラスだ。
隣の席には、望んでもなれるわけがないのに…。


「ねえ、名字さんってばー…いってえ!!」


橘君はパッと私の腕から手を離す。
その理由は、橘君の腕を思い切り叩いた人がいたからだ。


「もー、いきなり何すんの要っち!!」

「それはこっちのセリフだろーが小ザル…!!」


横を見れば、橘君の腕を叩いた張本人である塚原君が立っていた。
何だか、いらいらしている様子で。


「さっきから見てれば…。名字いやがってんじゃねーか」

「…え、名字さん嫌だったの?オレの隣の席…」

「え?別に、嫌ってわけじゃないけど…橘君おもしろいし…」

「……」


塚原君が、にらむように私の方を見た。

え?私なんか気に障ることしちゃった?


真意を探ろうと見つめ返せば、塚原君は視線を床へと向けてしまった。


「…小ザルの隣より、俺の隣の方がいいに決まってんだろ…」

「え?」


ぼそりと呟いた彼の言葉。
私はそれをちゃんと聞き取れなかった。
だが、橘君と祐希君はそれをちゃんと聞いていたようで意味ありげに顔を見合わせる。
いきなり訪れた沈黙に、塚原君は視線を私たちに向ける。
そして、ハッとした表情になりゆっくりと口を開いた。


「今の…聞こえたか?」

「ううん。聞こえなかったよ」


私がそう答えると、ほっとしたように顔の筋肉を緩める。
それも束の間。
祐希くんが発した言葉に、塚原君は再び表情をこわばらせるはめになった。


「あのさ名字さん。要の隣はどう?」


塚原君の隣…。
勉強のできる塚原君なら困ったとき助けを求められるし、比較的静かな方だから落ち着いていられるかも。
橘君の隣は確かに楽しそうだけれど…。
どちらかと言うと、静かな方が好きなのだ。


「うん。塚原君の隣がいいかも」

「…!」


私がそう答えると塚原君はバッとこちらを向いた。
なんかちょっと顔が赤いような…。


「あ、名字さん!早くしないと次の授業始まっちゃいますよー!」

「あ、うん!じゃあ、またね」

「お、おう…」

「まったねー!春ちゃんとゆうたんによろしくー」


松岡君に呼ばれ、私は3人の教室から出る。


塚原君の隣…か。
今は、なれないけど…。
来年同じクラスになれたらいいな。
そうしたら、塚原君の隣になれる可能性は出てくるし、例えなれなかったとしても、同じ空間にいることはできるのだから。






二人が隣の席になることは叶うのか。
答えは誰も知らない。






いつか、君のとなりに









(要、いつまで顔赤くしてんの)
(なっ、してねーよ!!)
(要っちさあ、名字さんとオレが仲良くしてたから羨ましかったんでしょー)
(うわー要さんったら…)
(いい加減にしろ、小ザル!祐希!!)






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