「やっぱり堺くん家はキレイだねぇ。うわ、すごい量のプロテイン」
「几帳面な感じとか堺さんぽいですよね」
「ちょっと、堺!前に俺がプレゼントしたうふんな本が1冊も見当たらないんだけどー!」
コイツ等は全く何をしに来たんだか…!
「だぁだ?」
駐車場からそのまま憑いて来た丹波、石神、堀田をやっとの思いで追い返した。
アイツ等、散々人の家を荒らしやがって…!
時計を見る。
気付けば真夜中。
そろそろ日付が変わる。
何だかんだで、アイツ等は世良に飯を食わせたり(作ったのは俺だ)、風呂に入れたり(独身の男がよく赤ん坊を風呂に入れることが出来たな)、俺が風呂に入っている間に世良の相手をしてくれていた(何度か泣き声は聞こえたが)
後は寝かせるだけ、その役目はだぁだに譲ってやるぜ、なんて丹波が去り際に言っていたっけ。
「さ、寝なきゃな。お前も早く寝ろ」
そう言って世良の汗ばんだ頭を撫でる。
…ん?
違和感を感じておでこに手を置いた。
若干だが、昼間より熱い?
そういえば顔も火照ってる。
呼吸も荒いか?
先程まで聞こえていた泣き声もパタリと止んだ?
体温計を持って来て、脇に挟む。
嗚呼、気のせいであってくれ。
――ピピピ、と体温計が呼ぶ。
…赤ん坊は体温が高いというがこれはいくら何でも高過ぎるだろう。
夏木に聞いてみようか?
しかし、こんな夜中に電話をするのも気が引ける。
冷静になれ。
よく考えろ。
「とりあえず氷枕、か?」
どこに入れていたっけ。
あまり冷やし過ぎるのはきっと良くない。
氷を入れ、タオルを厚めに畳み頭との間に挟む。
冷えピタ、よりは濡れタオルの方がいいのか?
あとは、ポカリ。
こういう時、母親の偉大さを実感する。
「あ、うあーぁ、」
元気のない泣き声がこだまする。
「世良、大丈夫だ」
「うぁああぁぁん」
「落ち着けって」
頬を赤く染めて苦しそうに泣く世良の額に濡れタオルを乗せる。
「ほら、冷たくて気持ちいいだろ?」
「ぅわぁああぁぁ」
汗でしっとりとしている茶色の猫毛を撫でつける。
こんなに汗をかいているのだ。熱が下がってくれればいいのだが。
「世良、大丈夫だ。だいじょうぶ」
幼児をあやすような声色で、ゆっくりと茶色の猫毛を撫でる。
すると安心したのか泣き声は徐々に小さくなり、すやすやという寝息に変わっていった。
時計を見る。いつの間にか日付は変わってしまっていた。
いつもならすでに横になっている時間なのだが、不思議と眠くはない。
盛りを既に超えたスポーツ選手に、体調管理という点からも規則正しい生活は必須なのだが(丹波、石神除く)、今日だけは眠くない。
眠くならない。
きっと俺は、目の前で寝息を立てる幼子が心配なのだ。心配で仕方がないのだ。
布団を胸元まで引き上げる。
「ほら、手も布団の中に入れろ」
冷えるぞ、と口元にあった手を握る。
「…だ、だぁだ」
きゅ、と握られた俺の人差し指。
昨日までは俺と変わらない大きさだった手が、今は俺の指さえ持て余す。
――これが現実。
無駄に熱いその手に、
無駄にちいさいその手に、
無駄に弱々しいその手に 、
なぜだか俺は無性に泣きたくなった。
実は寂しかった堺さん