「で、おまえ等はどこまでついて来るつもりだ?」
振り返りギロリと視線を送る。
「どこって、ねぇ?」
「わかってるくせに、ねぇ?」
丹波と石神は顔を見合わせて声を揃えた。
「堺(くん)と世良の愛の巣まで!」
「…堺さん、あの二人はこの調子だとどこまででも憑いてきますよ」
石神に引っ張られていた堀田がぼそりと呟いた。
「っていうか堺、もっとうだうだ悩んでるかと思ったのに意外と元気なのな」
丹波の言葉に思わず笑みが零れた。
空には相変わらず星が煌めいている。
いつもより念入りにマッサージをして貰ったあと、世良を抱いてクラブハウスを出た。
夜空には珍しく星が煌めいている。
「あー、」
世良の手が夜空に向かう。
「っと、おい暴れんな。…お前、星でも掴みたいのか?」
「だぁ、」
「…お前は脳天気でいいな」
きゃっ、きゃっと笑う世良の手は相変わらず空を斬るばかり。
「…これからどうすりゃいーんだよ」
いつ元の姿に戻るかなんて保証はないし、試合や遠征などで数日も家を空ける日もある。
そんな状況で、この状態の世良を連れて歩くのは正直な所、勘弁願いたいのが本音だ。
そんな俺の思考をよそに腕の中の世良は相変わらず空に向かって手を伸ばしている。
「だぁ、だぁっ」
「ったく暴れんなっての。お前は小さくなっても落ち着きがないのな」
「だぁ!」
「ちっ、認めてンじゃねーよ。…何で俺ばっかりこんなに悩まなきゃいけねぇんだ」
ぐるぐると思考は悪い方向へ動き出す。
もともとポジティブや楽天家とは程遠い性格だ。
(慎重派って言えば聞こえはいいが、要はビビりなんだ)
「なぁ世良、」
――お前はどうしたい?
――俺はどうしたらいい?
そんな風に決断を、覚悟を決めるのにこんな状態の世良に委ねるのは、なんて卑怯な。
そんな自分に嫌気がさす。
―――ぱしっ。
夜の駐車場に響く乾いた音。
頬にじん、とくる痛み。
そして、頬に触れる小さな手。
「だ、あっ!」
見るとでけぇ目に涙をいっぱいに浮かべた世良。
先程まではあんなに機嫌が良かったのに。
なんで?
「…めっ!」
ぱちんと頬に触れる手。
「だぁだ、だぁだ」
ぎゅっ、と抱きつく世良。
世良のくせに。
世良のくせに。
世良のくせに。
どんな姿になったって世良は世良、か。
(俺、堺さんの事なんでもわかるんス)
(堺さんが泣きたいとき、悲しいときなんかは特に)
(いつでも、どんなときでも俺は駆けつけますから!)
(だから我慢しないでください。俺、馬鹿で阿呆でどうしようもないけど、)
(ずっと堺さんのそばにいますから)
「世良、ありがとな」
世良の茶色くてふかふかした髪の毛を撫でる。
「俺はもう大丈夫だ。俺もずっとお前といるよ」
馬鹿みたいな面で、世良が笑った。
「さっかっいっくーん!」
駐車場に響く声。
こいつらどこから?
「キューティクル丹波とぉ」
「チャーミー石神」
「「参上!」」
とうっ、とか騒ぎながら車の影から飛び出す馬鹿がふたり。
どーしてこう元気なんだ。
「はい、お疲れさん。じゃ俺帰るから。また明日」
「つれない、堺がつれない!」
「丹さん、それが堺くんの標準スペック!」
忘れないでよね、とわざとらしく言う石神。
呆れた三十路を横目に俺は自分の車に向かい歩き出した。
今日の晩飯は何にしようかなどと考えていると、何やら背後の不穏な気配に気が付く。
振り返ると三十路のチームメイトたち。
「で、おまえ等はどこまでついて来るつもりだ?」
振り返りギロリと視線を送る。
「どこって、ねぇ?」
「わかってるくせに、ねぇ?」
丹波と石神は顔を見合わせて声を揃えた。
「堺(くん)と世良の愛の巣まで!」
「…堺さん、あの二人はこの調子だとどこまででも憑いてきますよ」
石神に引っ張られていた堀田がぼそりと呟いた。
(堺、意外と元気だったな。うだうだ悩んでるかと思ったのに)
(いや、俺は悩み過ぎて逆に吹っ切れたパターンと見た。堀田は?)
(そうですね、とりあえずは、…離してくれませんか?)
(世良)堺世良ですね。
ぐだぐだと続いてます。
ほら、無計画だから、さ。
冒頭のベテラン陣とのやりとりからちょっと回想した堺さんを書きたかったが、失敗。