「…―ってな訳で出場組は反省会、サブ組はランニング。はい頑張ってー」
やる気があるのかないのか読ませない表情のまま、パンと監督が手を叩く。
黒田と赤崎が騒いでいるのを横目に俺はランニングかと踵を返した。
解放された両腕の重みに母親の苦労を感じ、今日は念入りにマッサージだなと両脚に力を込める。
「さっかいくーん」
ランニングの最中にぽんと叩かれる左肩。
振り返ればそこには満面の笑みを浮かべた丹波がいた。
「ンだよ?」
「俺ヤバい。世良が超かわいい!俺、マジで夏木のセンスに嫉妬」
「……」
グラウンド中央で行われている出場組の反省会の更に向こう。
世良は監督の代わりにあやす松さんの腕に抱かれて、すやすや眠っていた。
その世良が身にまとっている洋服は、夏木に頼んで持ってきてもらった幼児サイズの服だ。
それも、怪獣のような着ぐるみ。
「つーか、世良ってでっかい目してんのな」
「…今更だろ」
「にしてもほんっとに子供って可愛いわ。世良にしても夏木の娘にしても、なぁ?」
夏木に子供用の服を持って来て貰って良かった。
いつまでも世良サイズの服とはいえブカブカの洋服を着せている訳にもいかなかったからな。
突然の電話に戸惑っただろうに、夏木には感謝をするばかりだ。
「じゃ15分休憩ねー」
監督の声が響いた。
額に浮かぶ汗を拭う。
スポーツドリンクを手に取り喉を潤した。
各々好きな場所で短い休憩の時間を過ごす。
コーチ陣とすれ違い会釈をする。
身体を冷やすなよと松さんを先頭にぞろぞろとクラブハウスの中に入っていった。
ふっ、と周りを見るとベンチに群がる丹波を先頭とするチームメイト達。
その中心にいるのは監督と監督の腕の中の世良。
兎にも角にも無事に練習が終わりそうで何よりだ、世良を横目にそう思いながら俺はグラウンドの隅に腰を降ろすと、筋肉を冷まさないようにストレッチを始めた。
隣いいすか?と堀田が隣でストレッチを始める。
「無事に練習が出来て良かったですね」
「あぁ、そうだな」
「丹さんったら本当に世良が可愛いんでしょうね。休憩の声と同時に飛び出しましたよ」
「あぁ、そうだな」
「堺さん?」
「あぁ、そうだ―、ってどうした?」
「…堺さんは否定するかもしれませんが俺としては早く世良に元に戻ってもらいたいですね。後ろから見ていて世良みたいなFWはとても気持ちいいんです」
…そんなこと、
「それにやっぱり世良の賑やかな声がないと、寂しいんですよ」
そんなこと、
言われなくたって、
「ちょっと待った、堀田!その続きは俺が言う!」
見上げればそこにはガミ。
「直球で言うけどさぁ堺くん、自分の表情見た?すっごくヤバいよ。隠してるつもりかもしれないけど強がってるのモロバレ。俺達さ何年一緒にいると思ってるの?堺くんの考えてることなんて透けてわかるの」
こいつら、
やっぱり、
「だからさ、世良があんなんなっちゃったのも全部含めて俺達に頼ってくれてもいいじゃない。堺くんと世良の関係くらいこっちはお見通しなの」
隠したそうだったから黙ってたけど、と石神はしゃがんだ。
真剣な石神の表情に俺は目を離せなかった。
「だから、俺達を頼ってくれてもいいじゃない」
『俺』ではなく『俺達』。
ね?と笑う石神は眩しくて、
俺の隣で微笑む堀田は眩しくて、
俺はうつむくことしか出来なかった。
「さーかい」
頭上から声が降る。
「堺ったらなにしてんのー!ちょっと世良がグズって大変なんだけど!俺のプリティーな顔を見ても泣きやまないんだぜ」
それって酷くね?と笑いながら手を差し出す丹波。
その手を取りながら俺は
、否、俺達は機嫌の悪い太陽の方向に歩を向けた。
仲良しな同世代ベテランたち。