「で、これ堺の子供?」
俺の腕の中を指差す監督と絶句する後藤さん。
違いますよ、と力無く否定する。
状況が状況なだけに、(コイツは“だーだ”とかほざいているし)信じろという方が難しいだろう。
「なぁ、堺の子供じゃないならどこの子?」
この状況を受け入れているのかそうでないのか達海さんは読みとらせない表情のまま。
「多分、世良じゃないかと…」
変な確信はあったが、世良という確実な証拠はない。
多分だとか曖昧な表現しかしない俺をじっと見つめる監督。
何かを見極めるような、そんな眼。
「…ま、堺が言うからそうなんだろうな」
な、ごとー?と笑いながらアイスをかじる監督と対照的に後藤さんはまだこの子供が世良だと受け入れられないみたいだ。
「ほ、本当に世良なのか?人間が小さくなることなんて聞いたことない…」
だーだ、と俺の腕を掴む世良。
コイツの重みも、このぎゅ、と掴まれた腕の熱さも夢ならどれだけ良いことか。
「夢ならどれだけいいか、なんて考えてンだろ?」
お前は何も考えて無さすぎだ!と後藤さんが監督に叫んでいるのが見える。
「後藤、夢みたいかもしれないけどね、あの子の重さや体温はやっぱり夢じゃないんだよ」
達海さんには俺の心の内も透けて見えているのだろうか。
失礼しました、と言って部屋を出る。
「だーだ!」
相変わらず元気いいな…。
「「だ、ぁ、だ!」」
背後からの声にゾッとする。
「ね、丹さん、゛隠し子゛ってホントだったでしょ?」
「いやん、どこの女との子供なの?!聡、聞いてない!」
「…ガミさんも丹さんもふざけてないで、ちゃんと話を聞きましょうよ」
そこには今、一番会いたくない2人と堀田がいた。
「―っていうわけだ」
目をキラキラさせている丹波の方はあまり見ずに、本日2度目の説明をする。
「朝起きたらちっさくなってた、か」
「つぅか、堺くんは世良は家に泊めれるんだー」
そういえば俺も泊まったことないのに!と言う石神と丹波。
この状況でそれを言うか…!
「で、今日の練習はどうするんスか?」
唯一、まともな堀田が聞いてくる。
「監督の部屋から出てきたって事は、この状況は説明してあるんスよね?監督は何て?」
「…監督はこのまま練習しろってさ。練習中は監督がコイツの面倒を見てくれるんだと」
3人の目が俺を見る。
「それならさっきの時点で預けておけば良かったのに」
石神が口を開く。
「そうしようとしたんだけどよ、コイツが、」
「コイツが?」
「コイツが、俺の腕を掴んで離さなかったんだよ…」
大きな目をして俺を見上げる世良。
見知らぬ大人に囲まれているせいか先程から、ちっさな手に込める力を緩めることはない。
「…世良、堺のこと大好きなんだな。安心しろよ、俺達がお前たちを助けてやるからな」
丹波はニコニコしながら世良の頭を撫でる。
「うあ?」
「―っ、なんて可愛い生き物なの、お前!」
俺もお前の事好きだぜ!と世良を撫でる石神。
「そういうわけで、堺さん。俺達に出来ることは遠慮なく言って下さいね」
俺の肩にぽんと手をかける堀田。
柄にもないが、連れ添った仲間がコイツ等で良かったなんて思う俺がいた。
達海と後藤とベテラン陣。
達海は常識外のことに対し許容量がハンパなく大きそうです。
逆に後藤は絶対にテンパる!
ベテラン陣は面白がっても何だかんだ協力しそうだと思います。
さて、どうやって完結させようか(笑)