「すっ、げぇー!」
「…あんまり騒ぐんじゃねぇぞ」
「見て下さいよ!ゆき、雪ッスよ!」
すっげぇ、さみいー!と騒ぐ世良を横目に俺は先に湯に浸かった。
冷えた身体に温かさが染み込んでいく。
露天風呂が有名な温泉というのは知っていたがここまでだとは思わなかった。
それは雪見風呂。
見渡す限りの白色に、世界に俺しか存在しないのではないかと錯覚させられる。
心も身体もリラックス出来るとはまさにこの事かもしれない、と俺は自主トレを早めに切り上げて良かったかもなと感じていた。
「堺さーん、見てください!」
その声に現実に戻される。そういえば世良は湯に浸からずに何をしてやがんだ?
「あ、なんだよ?」
じゃーん!、という声の下披露されたのは何かの雪の塊。
「…これは何だ?」
「えー、解らないんスか?」
残念そうに聞いてくる世良。
定番の雪だるまにはほど遠い形をしているそれは、俺にはただの雪の塊しか見えなかった。
「これはね、パッカです!」
俺の目は節穴なんだろうか。どこをどう見てもパッカには見えない。
「…馬鹿やってねぇで早くこっちに来い。風邪引くぞ」
はぁーい、と気の抜けた返事をした世良がトコトコと歩き出した。