土×銀八




「せんせい」

「はい?」

「俺のこと、」

「好きですよ」

好きでなけりゃこんなことしてませんよ、と呟いて、先生はシーツの下で裸の脚を絡ませてきた。俺たちは胸を合わせて互いにぐったりと凭れ合っていた。途方もない虚脱感とほんの少しの満足感。そして、倦怠と罪悪感がひたひたとせりあがってくるのを、俺は強いて無視しようとする。俺たちがこうして抱き合っていられる時間はとても短い。貴重なこの時を、つまらない感情ですりつぶしたくなかった。

先生は小さくあくびをした。猫のようなしぐさで、俺の胸に柔らかな髪をすりつけてくる。身長はほとんど変わらないのに、先生はいつも猫背だから、俺たちの抱擁はいくぶんいびつな形になる。

俺は薄く丸い先生の背中を抱き直した。先生は男にしてはしなやかな身体をしているが、それでもやっぱりどこに触れても丸みはなくて、俺と同じ構造でできている。おまけに先生は教師で、俺はただのガキだ。早く大人になりたいと願っても、永遠に埋まらない、些細な、けれど絶対の差が、俺たちのあいだには横たわっている。

−−俺、腐れ縁のやつがいるけど、それでもいい?

よれよれの白衣のポケットに手を突っ込んだまま、先生は俺の告白にそう答えた。なんという手酷い返事だろう、と確かに思ったはずなのに、俺は先生の手の中で溶ける飴のようにぐにゃぐにゃだった。「それでもいい」はずがないのに、俺は頷いていたのだ。先生の体温で俺はとろけた。先生が好きなお菓子のように。

先生とのこの関係は、でも、全然、甘くはなかった。殺伐とさえしている。こうして、夕方のまだ明るい時間にいつもと同じホテルに入る。不景気なツラの管理人と先生が知り合いだとかで、男どうしだということも、俺が高校生だということも目こぼしして貰えるからだ。俺たちはどこかでお茶をしたこともなければ、もちろん遊園地だの海だのでデートしたこともない。俺は先生を抱くことができても、先生が自分のものだと思えたことはない。いつも、体のどこか奥の方で、軋んだり潰れたりして痛い場所がある。どんなに気づかないふりをしても、それはまるで肩こりのようにしつこくて、居すわって消えない。

先生がため息をついて、サイドテーブルから携帯を取り上げた。器用に液晶にタッチしてメールを開く。

「……会うの?」

「うーん、まぁね」

「どっか、行くの」

「メシな、メシ」

胸がかきむしられる。この、じわじわと食い荒らされていくような感覚はなんだろう。俺の気持ちはいまだに宙ぶらりんのまま、告白したあの日にとどまって進めずにいる。

「先生、」

「ん」

俺は先生に覆い被さって唇を塞いだ。先生は驚いたようだったが、やがて俺の背中に腕を回してきた。薄く柔らかい舌が絡みつく。脊椎が痺れて、俺はせめて先生の白い肌に痕跡を残そうと、その身体を安いシーツにしっかりと押さえつける。先生は、そんな俺を嘲笑するように喉で嗤った。俺は小さくうごめく先生の喉仏に噛みついて、歯を立てた。










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