坂→銀




俺はねえ、自分がどこにいるか、ちゃんとわかってたいんだよ。臆病かも知れないけどさ、東西南北が分からないどこかをさ迷うなんて、怖くって。

茶化すようなへらへらしたいつもの笑顔で、銀時はそう言った。たぶんそんなのはウソか、ウソとは言わないまでも適当な言い訳だろう。別に何かを期待していたわけでもないのに、俺はなんだかひどく落ち込んで、そりゃもう地面に突き刺さってめりこんでドリルになって地球の裏側まで突き抜けてしまいそうな気分だった。

だいたい銀時が悪い。きれいな顔をして、まるで天女が化けたようななりをして、火がつけばバッタバッタとでかい敵を斬り殺して、返り血を銀髪に浴びて平然と冷たい眼で殺した相手を見下ろす、その禍々しく美しい姿は、破壊力満点だ。それは、たぶん男が夢見る究極の美だ。暴力と冷血、その奥の奥に潜む淋しい子供の顔−−。

「ダメじゃダメじゃ、あんなんに引っかかったらいかんぜよ」

あの夜と同じ満天の星空を見上げて、俺は独り言を呟いた。振られた相手をいつまでも、まったくもって女々しいこっちゃ。

お前はどうしているかのう。あの頃よりいくらか厚くなったツラの皮と、冷めた目つきで、迷子になる心配のない地面の上を、風に吹かれるような足どりで、気ままに歩んでいるのかのう。つまらない、つまらないと言いながら、本当はそんなふうに思っていないのに、癖になった「つまらない」を携えて。

星が流れる。宇宙はどこまで行っても宇宙で、まるで俺をからかうように終わりがない。俺が飽きたと言うのを待っているのかも知れない。誰が言うか。どこまででも進んで、宇宙の端っこに辿り着いたら、そこにふざけた落書きのひとつも書いてやるぜよ。そうだ、相合い傘なんて、どうじゃ?洒落とるじゃろうが。

届かない流れ星に手を伸ばす真似事をして、俺は笑った。ほんの少し、泣きたい気分だった。










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