やあ、いらっしゃい、はじめまして。よく来たね。

そんなびっくりしたカオすんなよ。あんた、あんたの頭ん中にも、オレの仲間がいるんだぜ。呼び名は色々だけどな。詳しく知りたいなら、そこらの本屋でちょっと難しい本を立ち読みしてみな。めんどくさい?…うーん、簡単に言うとだな、オレはこいつのシショなんだよ。司書。図書館にいるだろ?そうそう。

つまり、こいつが経験して記憶したことを、こうやって順番に並べて、要るもんと要らないもんに分けて、要るもんは優先順位をつけて本棚にしまう。すぐ手の届くとこ、手を伸ばせば届くとこ、脚立がなきゃ届かないとこ。もう経験済みで要らないってもんも、一応上書きしたり古いのと入れ替えたり、なかなか大変なんだぜ、この仕事も。

まぁこいつはよく寝てくれるからね、楽だけど。…そうだよ、オレたちはあるじが寝てるあいだじゃなけりゃ仕事ができないんだよ。寝る子は育つって、アレほんとだよ。特に子供のうちはね、新しい経験の連続だろ?ちゃんと寝てくれないと、記憶がとっ散らかってお勉強の苦手な子になっちゃうよ。アレ、成長ホルモン?あいつもあるじが寝てるあいだにゴソゴソ動いてるからね。お仲間だからね。だからよく寝てくれないと。

いや、こいつみたいに、いい大人になっても朝寝して昼寝して夜もぐうすか寝るってのは、確かにどうかと思うよ?寝過ぎだよ確かに。たまにちょっと心配にはなるね、うん。でもあっちこっちの細胞連中に連絡してみても、どこも問題ないらしいからさ。今んとこはね。

ああコレ?コレは最新版だよ。できたてホカホカってやつ?今日、ジャンプ読んだからねこいつ。もう海賊王だの死神だの忍者だの、両さんからいぬまるくんまで、こいつん中は今、努力友情勝利!で溢れだしそうなんだから。これはとりあえず、すぐ手が届く場所に置いとかないと。

こっちは…、ああ、またあいつだよ。ん?うん、最近しょっちゅう仕入れてくる記憶があってね。決まってこの男が出てくるのよ。見る?

…まぁ、いい男だよなうん。オレには及ばないけどな。おおっと、今日は立ち話でもしたらしいな。こいついっつも煙草くわえちゃってさ、目つき悪いしぶっきらぼうだし、あーあこりゃ口喧嘩してんな。こいつの顔、見なよ。ぷぷぷ。

なーんか、こいつの記憶持って返って来た日は、オレのあるじはどうやらご機嫌なんだよなぁ。ホラ、この記憶、ちょっとキラキラしちゃってるでしょ?コレは恋する相手を見てる時のキラキラだよなぁ。やっぱりそうなのかなぁ。うーん。いやいいんだけどさ。男だぜこいつ。ねぇ?

まあ、あるじが誰とくっつこうが、いいんだけどね。えーでもー、もし、もしもよ、この男とあるじがピンク色にすったもんだしちゃったら、その記憶をいちいち整理するのはきっついな。でもあれかな?オレはあるじの一部であるからして、そうなったらそうなったで、それが自然になっちまうのかな?わかんねぇな。

あ、まただ。今日は団子奢らせたらしいや。うーん、幸せな味の記憶ー。上書きしとこう。あれ、なんだかいつもより更に幸せ度アップしちゃってるよ。…もしかしてアレ?「好きな相手と一緒に食べるとなんでも美味しいマジック」!?

…もう、決まりかなコレ。食べ慣れた団子が三割増しで美味く感じられちまうほどだもんなぁ。けどこいつひねくれてるからなぁ。それはもう、いっぺんひっくり返して裏返して雑巾絞りにしたくらい、ひねくれてるからね。好きになっちゃったとして、ここからが長いんだろうなぁ。心臓バクバクしてるくせに、顔はツラッとこいちゃって、いつもの死んだ魚みてぇな目ぇして、相手をからかったり喧嘩吹っかけたりするのがせいぜいなんだろうなぁ。あーあ、先が思いやられるわ。

…『いつものあいつと食った団子の味』

はい、終了。こうやって集積される記憶が、こいつをゆっくりゆっくり形成してくわけ。大人になったら成長しないなんてこと、ないからね。人間、死ぬまで勉強だよ。見慣れてる景色や、毎日顔を合わせる家族だって、同じようで少しずつ違うんだよ。自覚しててもしてなくても、それらの記憶があんたを作ってんだ。

あ、その棚はダメだよ。−−うん、鍵かかってるでしょ。その辺りはね、古ーい古い記憶の吹き溜まりなんだ。うずたかく埃を被っているけれど、ちょっと磨けばまた輝きだす、古いのに色褪せない、特別仕立ての記憶の宝箱さ。中身はナイショ。−−きっとこいつは、ずっとずっとこれを大事に抱えたまんま、生きてくんだろうなぁ。

この…目つきの悪い野郎がさ、こいつの大事なものの一つに加わっても、古い宝箱が開けられることはないと思うよ、うん。ただ、新しい経験と記憶は、こいつをまた少し、豊かにするだろう。幸せな記憶でも、そうじゃなくても。

あらら、こっちもだよ。後ろ姿をこっそり見送るなんて、泣かせるじゃない。気のないそぶりで団子の残りを食いながら、目だけはまるで焦がれるように野郎を追ってる。

…『背筋の伸びた後ろ姿、風に吹かれる年の瀬バージョン』。こんなもんでいいかな。ちゃんと新着記憶に並べとくから、次に会う時まで思い出してニヤニヤすればいいよ。…って、オレもだいぶあるじに影響されてきてるな。だんだんこの野郎のことが好きになってきたみてぇだ。

あんたも、記憶に残しておきな。人間の脳みそなんて、本当は簡単に伸び縮みして、なんだって吸収するんだ。好きだなと思ったら、性別を飛び越えることくらいどうってこと、ない。

じゃあな。記憶をお大事に。思い出して相手がキラキラしてたら、それは恋だよ。ほら、コレもそう。ハハ、あの野郎、最後に振り向きやがった。案外おんなじ気持ちだったりして、な。










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