黒電話ぁ? 今どきなかなかお目にかかれないぜこんな骨董品。どこから持ってきたんだババア。どうせならアレだ、コードレス? 多機能? とかそういうのにしてくれれば仕事もはかどる……嘘ですありがたくいただきます助かります。
試しにかけてみる? お、おう。……緊張すんじゃねぇか。 ……もっ、もしもし? うるせぇっ、ちょっと裏返っただけだって! ババア笑い過ぎだろ、あのなぁ電話には電話の精が住んでいてだな、そうやって電話で人を笑い物にするようなババアには必ずや天罰がだな、
そうだよおれなんて毎朝拝んで磨いて水あげちゃうからね、きっと電話の精が幸運と金といい女を、
切るなよ! ……ったく。
チン。
***
もしもーし、万事屋銀ちゃんですが今日はもう閉店……
は? どちらさん? もしもーし。
……ああ、えーと多串くん? だっけ? 違った?
はいはいはいはい、大声出すなようるっせぇなあ! あれだろ、おまえまた瞳孔おっぴろげて頭から湯気立ててんだろ。カルシウム足りてねぇんじゃね? いちご牛乳でも飲みなさいよ。
ん? んん?
……んー、ん?
なんでおまえがそんなこと知ってんのぉ? えっ、真選組ってストーカーばっかりなの?
……。
ああ、沖田くんから。ん? なに、うちの子と沖田くんってそんな仲良しなの!? 聞いてないんだけど!? ちょっと待ってよー、困るよ不純異性交遊はー、ああ見えて大事な預かりものだからね、神楽ちゃん。
……。はあ、まあ、ドウモアリガトウゴザイマス……?
えっ、なんでおまえに礼言っちゃってんのおれ、なんなのこれ。いやいやおかしいでしょ、だいたいあれだ、祝う気持ちがあるなら金とか宝石とか不動産とか、腹の足しになるもん持ってこいってんだよ。
き、気持ちぃ?
いやいや気持ちなんていらねぇから、そんなもんじゃおれの心は豊かにならねぇから。おれを満たしてくれるのは目に見えるお宝だから。ね?
……。
お、おう。わかった。おう、また、そのうちな。
……。
……。
えー、なんなのあいつ、えー? 意味わかんねぇよ。
もしもし、万事屋銀ちゃん……、おう、おまえか。
あ? あー、今日はあれだ、神楽と新八がそわっそわして、サプライズのつもりなんだろうけどバレバレだっつうの、とにかく下の店でなんかしてくれるらしいよ? 下の家政婦が言ってた。はは、あいつ嘘つけねぇから。
ん? ああわかってるわかってる、おまえ夜勤だって? へっへ、沖田くんが教えてくれた。あ? 妬くな妬くな、眉間にシワ寄せんな、はは。そう、見えんの。銀さん千里眼だからー。
んー、どうかなー、どうせ遅くなるから子供ら泊まってくだろうし、おれもたぶん酔っぱらって寝ちまうよ、うん。それに仕事中に寄り道っつうのもあれだろ、うん。
……。
そういうわけじゃねぇよ、拗ねんな。ガキか。
あ? えっらそうに、上から言ってんなよマヨ野郎。
……。
うん、やめようぜ。わざわざケンカするために電話くれたわけじゃねぇだろ。
せーのでゴメンナサイしようぜ、な?
せーの。
……。
ぶはははは、ばーかばーか。ひーおっかしい、ぶくくくく。
あっ、切んなって! 悪かったって! すいませんでした!
……。
おう。
おまえのそういう律儀なとこ、銀さん嫌いじゃねぇわ、うん。
……。
ばっ、黙ってんじゃねぇよ! 恥ずかしいだろうが! もう切るからな、おう、またな!
……。
あーもう、なに照れちゃってんの? 中学生かっての。
もしもーし、万事屋銀ちゃんですが、店主は飲んだくれてもう寝まーすうへへへへ。
……。
……。
あ、一瞬寝てたわ。うう、今何時だよ。よい子は寝る時間じゃねぇかよ、おまえ遅ぇよ。
べっ、別に。待ってたわけじゃねぇけど。いや、全然。
ん? ケーキ? 食った食った、主に神楽が。はは。お高いだけあってうまかったわ。うん。いやあ自分は食べられないのに悪かったねぇ土方くん、美味しくいただきましたよ。
……。
そういじけんなって。出張じゃしょうがねぇだろ。帰ってきたらゆっくり……も、できねぇか。おまえ忙しいもんなぁ。予定じゃ今日明日休みだったのに、残念だったな。……よしよし。
うわははは、情けねぇ声出してんじゃねぇよー。マヨでも吸え。……。ばっ、なに言ってんの、いいからマヨと煙草吸っとけ、やーめーろーよー電話で調子に乗んな、おまわりさーん、痴漢でーす!
……。
……。
ま、今度な、今度。いつって……、いつでも会えんだろ、お忙しい副長さんが頑張ってお仕事片づけて時間作ればさあ。
おう、じゃ、そういうことで。おみやげ待ってるわ。なんならおみやげだけ送って。わざわざ持参させるの悪いから。
はは、まーた拗ねる。ウソ、お待ちしてますから、はいはい。気ぃつけて。
はいよー、おやすみ。
……。
……。
寂しがってんのはおまえだけじゃねぇっての。
***
もしもし、土方?
……。
……。
去年の今日の今ごろ、電話くれたの、覚えてるか?
おれ酔っぱらってたなぁ。けっこうべろべろで、電話とった瞬間寝落ちたっけ。
電話越しでも、おまえがむくれてんのよくわかったよ。おまえさぁ、クールっぽい雰囲気が売りみてぇな顔してたけど、ほんとはガキだよな。瞬間湯沸し器っつうの? すぐかっかするしよ、落ち込んでも嬉しくても丸わかりなの。
……。
あのさあ。
言ったことなかったけどよ。
おれさ、嬉しかったんだよ。
おまえがさ、真っ正面からケンカ売ってきて、顔見るたびに絡んできやがってさあ、ああだこうだ張り合って、はは、くっだらねぇ、なんでおまえ、おれのことになるとなんでもかんでも負けず嫌いになるの?
……そんなふうにおれを……、なんていうか、当たり前みたいに、対等な相手としておれを扱ってくれたのがさ、おれはほんとに嬉しかったんだ、土方。
だからそれだけでもよかったんだけど、まあ、でも、いちゃいちゃすんのも悪くなかったよな。おまえの匂いとか髪の毛の手触りとか、へへ。
……。
なあ。あの酒、もうちょびっとしか残ってねぇよ。
……。
いやほんとはさ、とっくに空っぽにしちゃってるはずだったんだけど。なんか、できねぇの。あれ空けちゃったらおまえとの繋がり? が、いっこ切れちまう気がして。
いや、いやいやいや。わかってるよ。おれとおまえの腐れ縁はそうそう簡単に切れねぇよ? ただ……、
いいだろ? こういう日はちょっとおセンチになったって。ぶ、おセンチってなんだよ。
……まあアレだ、誕生日は一緒に過ごそうぜって言いながら、結局予定通りにはいかなかったよな、おれたち。あんなにしょっちゅう、どこででも会ったような気がするのにな。
……。
いつでも会えんだろ、って、おれ、言ったんだよな。一年前の電話で。
会えなくなるなんて、思ってなかったからさ。
でもほんとはそうなんだ。今日は笑顔でじゃあまた明日なって言っても、明日会えるとは限らないんだよな。誰だって。
……。
……。
ゴホン。
えー、うん。
土方。
元気か? 元気で、あの犬の餌みてぇな飯食って、青筋立てて怒って、刀振り回してみんなビビらせてるか?
ほんとはもう、それだけでいいような気がすんだ、おれ。
笑って見送ってよかったと思うよ。あのあと起きた色々なことのあいだ、おまえをああして送ったことが、なんだか、おれをしっかり立たせる柱の土台の釘みたいだった。
はは、釘だ、たかが釘。
たかが釘の土方くんは、だからこれからも馬鹿で優しい馬鹿でいてください。
じゃあな。
……。
……。
……。
……。
……。
うおっ!
びっくりした。
なんだよこんな時間に常識のねぇ……もしもーし、万事屋銀ちゃんですが本日の営業は終了……、
……。
……。
お、
おー、おう、久しぶり。はは、すっかり声忘れちゃってわかんなかったわ。なに、どしたの、元気?
……。
はあっ? え? いやいやいやいや、そんなことしてねぇよ!? え、えーっ!?
お、おまえに電話なんてかけてねぇし! メ、メッセージなんて入れてねぇっ!
……。
ちょ……、ちょっ、繰り返さないで恥ずかしい! やめて死ぬから! ほんと死ぬってぇ!
……。
……。
おまえすっげぇにやにやしてるだろ……。
……。
ああ言ったよ、言ったのは認めます! いいだろ! ちょっとした出来心じゃん、おふざけじゃん!
でも電話はしてねぇしメッセージも入れてねぇぞ。マジで。なにこれホラー?
……。
ぶっ。
きっ、奇跡とか、どんな顔して言ってんの土方くん、その顔見たいわぁ。ぶくくくく。
……。はぁ?
見せてやるって……? なにそれおまえまさか、え? えっ? いてっ! ばかやろう机の角に小指! ぶつけた! 笑ってんじゃねぇ、ってか笑い声聞こえたぞ電話じゃなく!
マジかおまえ。ちょ……ちょっと待って、
チン。
まったく、なにがどうなってんだよ!
あ、
……ありがとな? ……水あげてねぇのにな。……って、いやいやねぇわ。はいはい今開けますばかやろうガンガンうるせぇ!
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