血の臭いがするな、と思って、半睡のまま窓を開けてみたら、音もなくただひたすらに雨が降っていた。しばらく、暗い空から垂直に落下する無数の水滴をぼんやり眺めていたらすっかり目が醒めて、寝直す気も失せた。

雨は血の臭いなんてしない。空は血なんて流さない。なのにどうして、雨が降るたび、俺はこんなふうに感じるんだろう。

なんでだろう?

冷蔵庫を開けて、がらんとした庫内の明かりに問いかけてみた。返事はなかった。ついでにいちご牛乳もなかった。

なんでだろう?

押し入れを開けて、薄暗がりに問いかけてみた。返事はなかった。ついでに神楽もいなかった。張り切って遊びにでも行ったんだろう。おまけのおまけに新八もいなかったが、まああいつは成分の99%がメガネだから、別にいてもいなくてもいいや。

なんでだろう?

しけた煎餅をかじりながら問いかけてみた。煎餅は甘じょっぱくて悪くなかったが、いかんせん湿気を吸ってしまっていて、後味が悪かった。しょうがないのでお茶でも煎れるかと台所に戻ったら、茶筒の中がからっぽでがっくりきた。もう、お湯を沸かしてしまったというのに。しかたなく、白湯を飲んだ。そうしたらますます厭な気分になった。

−−腹、減ったなぁ。

−−何もねぇよ。悪食のお前でも、さすがに死体は食えねぇだろ。ほら、お湯でも飲んどけ。

ああ、まだ、雨はやまない。





「寝てんのか」

幻想か記憶か、境目がぼんやりした夢は、最近覚えた波長の声で破られた。ばっと身体を起こすと、黒の着流し姿の土方が、眉をひそめて見下ろしていた。俺はへらへら笑った。作ったわけじゃなく、自然に顔が緩んだ。

「びっくりさせんなよ」

「出ねぇから」

戸、開いてたし、無用心にも程がある、と土方はぶつぶつ言った。そして、たった今まで俺が突っ伏していた机に、ドサッとコンビニの袋を置いた。

「なにこれ、おー、気が利くようになったね、おめぇも」

いちご牛乳とシュークリーム、煙草のパッケージ。土方は別に、と言った。

「煙草買いに寄ったついでだ」

「またまた。おめぇのそういうしつけのいいとこ、嫌いじゃねぇよ」

茶化してやったら、土方はムスッとしたけれど、俺が着流しの衿を掴んでキスしたら、今度はびっくりして目を見開いた。

「なな何してんだ、」

「いいじゃん。たまにはご褒美」

「俺は犬か」

そう言いながらも、土方の腕は俺を束縛するように背中に回された。

だって、嫌いなものの後に好きなものが二つ来たら、嬉しいだろう?甘いもんと、あったかいもんが。

俺は土方の肩に手を乗せた。乾いていて、しっかりとここにある。雨はもうやんだらしい。










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