「ぬるま湯みてぇだな」

土方が、俺の背中に胸を添わせて静かに言った。そのまま沈黙する。前に回された腕を撫でてみた。疲れているのに、その腕に浮き上がる血管の一つ一つまでなぞれるような気がした。いたずらに指を這わせていると、土方はくすぐったそうにちょっと肩をすくめたが、やっぱり何も言わなかった。

ぬるま湯ってか。

この布団の中の温度を指してなのか、それとももう一年以上続いている関係を言っているのか、目を瞑ってぼんやり考えた。確かにこの腕の中は居心地が良い。土方だってそうだろう。疲れただの忙しいだのお前は愛想がないだの俺はホモじゃないだの言いながら、こうやって通ってくるのだから。

土方は理想的だった。面倒をかけることも、返答に困ることを言って駄々をこねることもない。うざったくならず、寂しくならない頻度で、彼は会いにきた。ややこしいのは嫌いだ。体を重ねるのに理由なんていらない。歯の浮くような睦言も、あまったるい微笑みも、求めちゃいない。勢いよく燃え上がる温度より、このぬるま湯の方が、自分たちには合っている。

土方が髪に顔を押しつけて、長いため息をついた。息があったけぇなぁ。二人ぶんの鼓動がとくとくいって、そのリズムで眠くなる。さっきまでやってたことが嘘みたいに、静かで穏やかで、暗い部屋がまるで揺りかごのようだ。

「いつまで」土方が呟いた。「いつまでこうしてられっかな」

「……どうかした?」

「いや」骨っぽいてのひらが腹を撫でる。優しい手つきで。

「いつのまにか、おめぇは、」

今にも眠りに落ちそうなゆらゆらした声だった。土方は体温が高い。指先が温かい。いつのまにか馴染んでしまった、その、

「ああ、いつのまにか、だな」

笑いながら答えたが、土方の耳には届かなかったかもしれない。すぐに、柔らかい寝息が髪に染みてきたから。今なら簡単に首を取れそうだ。

−−気ぃ許してんじゃねぇよ。

俺は忍び笑いをした。土方を起こしたくなくてそうしたのだときづいたら、なんだか胸の真ん中あたりがふわふわとして、恥ずかしいったらなかった。そしてそれは思ったより悪くない気分だった。ぬるま湯でいい。この生ぬるい感触が、俺は愛しいのだ。

朝まで、どうぞこのままで。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -