朝起きて、適当な飯を作って食って、神楽と定春を遊びに出し、床を片してぶらりと秋晴れの街に出た。なかなか気持ちのいい天気だ。寒くもなく暑くもなく、肌に当たる風が心地よい。たまに顔見知りに出会うと、よお、なんて手を上げ合う。パチンコ屋に入ろうとして踏みとどまったのは、懐が寂しかっただけでなく、何もこんな日にジャラジャラうるさい中で煙草のケムリに噎せることもないか、とぼんやり思ったからだ。どうせ夜には煙突みたいに煙草を吹かすおまわりさんが来て、ぷかぷかやるに決まってる。

最近ヤキが回ったか、あいつの顔を思い浮かべるとちょっと頬が緩んだりするのが、我ながらイヤだ。あいつはあれでも一応組織の幹部のはずだが、ウチに来るときはなんだかむくれたガキみたいな顔をしている。野良犬とかちょっと人生を拗ねたガキとか、そんな顔だ。

俺だって色々あんだよ、と時々、あいつはまるで思い出したように言う。俺がそれを茶化すと更にむくれる。まるで子供だ。たまには、かわいいねとか言ってやる。やつが顔を赤くして怒るのを承知でだ。

俺にも色々あるさ、と、秋の風に呟いてみる。俺の声にはどうも重みがない。タンポポの綿毛並に軽い。たまに真面目なことを言うと心配されるくらいだ。それでもまあやっぱり、俺にも色々あるのさ。そこそこ長生きしていれば誰でもそうであるように。

ついでに迂闊なんだよな、と俺はまた呟く。俺がもうちょっと慎重だったなら、真選組の副長さまとうっかり寝たりはしなかったろうし、いやいや、それどころかあれやこれやのトラブルに顔を突っ込んだりしないだろう。一度剣を捨てたサムライ(笑)らしく、おとなしく世を儚み、静かに流れて消える。ややこしいこの時代に生を受けた人間らしい、それが運命だと自己満足なり自己完結なりして、慎ましく傘張りでもしてりゃいい。

「まったくだ」

懐に入れた手で顎を撫でた。事がそう素直に運んでいたら、今頃俺は生きていたか、甚だ疑問だ。元々だらしない俺のことだから、息をするのも面倒になって、とっととこの世におさらばしていたかも知れない。神楽や新八に会うことも、ヅラに悩まされることもなく、あいつに関わることもなく。

−−それはそれで、つまらねえ、かな?

川っぺりの遊歩道のベンチに腰かけて、俺は青く澄んだ空を眺めた。誰かが読み捨てていった今朝の新聞が置いてある。開いてみると、世の中相変わらず落ち着きないらしい。それを他人事にして過ごすも、勝手にくちばしを挟むも、それぞれの自由だろう。

要はあいつはあいつ、俺は俺、だ。

ずっとこのままやっていけるなんて思っちゃいない。いずれ道は別れるかも知れないし、敵として対峙することさえあるかも知れないのだ。お手手繋いでみんな仲良く、なんて、幼稚園みたいな遊びをするつもりはない。ああ、それは確かだ。

今でも俺は侍だ。時折それを残念に思うが。

あいつも同じだ。

「一生、ただの悪ガキ、ってか」

ちょっと楽しくなって、俺は少し笑った。暖かい日差しがうららかに降り注いで、爽やかな風が体を抜けていく。この空の下で、今日も人は産まれたり働いたりくっついたりケンカしたり、死んだりしているのだ。それだけのこと、まるで奇跡みたいな繰り返しが、この世界に溢れている。あいつが俺を見つけたのも、その、やたらとありふれた奇跡のひとつだ。

俺はあいつに持たされた携帯を取り出した。メールを送る。−−そういえば俺、今日誕生日だったよ。お前じゃなくてケーキを待ってる。ていうかケーキなしで来てみろ、叩き出すぞコノヤロー。

送信ボタンを押した時、焼き芋屋台ののどかなラッパが聞こえてきた。おやつにすっか、と腰を上げ、散り始めたイチョウ並木の道を歩き出しながら、俺は、ふと、そういや一度あいつと本気の本気でお手合わせ願いたいもんだぜ、なんて、鼻歌まじりに思った。







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