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 ここは、鳳山王国という、高い山に囲まれた高原地帯に作られた国である。
 気候は場所の割りに温暖湿潤、年中小春日和といえる好天に恵まれるらしい。

 言葉は、ミントゥが最初に喋ったとおり日本語ではなく、発音は中国語に近い。
 使われている文字は日本で使っているような漢字だから、文字から言葉を覚えると早い、と助言を受けた。

 鳳山、と書いて、フェンシャンと読むのだそうだ。
 叔父はこの国をホウザンと呼ぶけれど、多分この国の言葉で話すときはちゃんと、フェンシャンと読むのだろう。

 同じように、鳳王と書いてフェンワンと読むのが、俺や叔父の立場だった。

 鳳山王国の建国神話は、鳳王と国王の関係を示す物語だ。

 何でも、元々王国の国民は草原を移動して暮す遊牧の民だったらしい。
 神々に愛された彼らは、いく先々で潤沢な恩恵を受けた。
 その彼らを温かく見守っていたのが、神の御使いである鳳だった。

 ある年、世界的な異常気象が起こった。
 その被害は遊牧の民である彼らをまず直撃した。
 そのため、鳳はこの高い山に囲まれた土地に彼らを避難させた。
 その土地は、豊かな恵みと放牧に適した土地柄を持っていて、先住民もいなかったため、異常気象が治まった後もこの土地に残り、永住することを決めた。

 恵み豊かな土地であるが故に、人々はそれが鳳の加護を受けたものであることをすっかり忘れ、恩恵を当然のものとして、だんだんと貪欲になっていった。
 森を切り開き、山を切り崩し、土地は姿を変えていった。

 人々の変貌を悲しんだ鳳は、神々の許しを得て、別の世界へと去っていってしまった。

 鳳が去った後、国土全体を潤していた暖かな風が消え失せ、田畑は枯れ、木枯らしが吹きすさび、雪が降れば吹雪に、雨が降れば大雨になって、人々を苦しめた。

 ようやく鳳の加護に気づいた彼らの王は、異世界へ行ってしまった鳳を探しだすと、戻ってきてくれるよう頼み込んだ。

 すでに異世界での暮らしを始めていた鳳は、条件を付けて、子孫の一人を彼らの元へ戻すことにした。
 その条件が、国王となった者は自らの治世を守る鳳を一人、自ら呼びかけて手に入れること。大事に敬い、一生をかけて守り慈しむこと。
 約束が守られている間は、鳳は国を守る守護神となるだろう、というものだった。

 こうして、鳳山王国の国王は、自らの一生をかけて守る鳳王を一人手に入れ、その治世の平穏を約束された。
 というのが、建国神話だった。

 で、その鳳の血筋というのが、母の実家である鳳生家だというわけ。

 一人の王に一人の鳳王だから、王が先に死んでしまって次の王が自分の鳳王を呼び寄せれば、その国には二人の鳳王が存在することになる。
 俺と叔父が、まさにその状態だ。
 王が即位するのは父王が引退する時か逝去した時だから、大抵はその当時で三十歳は軽く過ぎていて、鳳王として呼ばれるのは成人前後の若い男なので、鳳王が王より長生きするのは普通のことらしい。

 俺を鳳王として呼び寄せたラオシェンには、正妃が一人、側室が三人、いた。ラオシェンの歳は二十四歳。
 二男三女の子沢山パパだった。

 ってことは、俺の立場は別に側室になれとかそういうものではなくて、ただ単に鳳王という象徴の存在でいれば良いということだ。

 ことだけど、それ、暇だなぁ。





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