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結局泣き止んでも泣き疲れて動けなくなってしまった俺をリャンチィが抱き上げて部屋に連れて戻ってくれた。
想定外の大団円にパニックになったあの部屋の騒動は、ラオシェンとミェリィが引き受けてくれたらしい。
らしいというのは、俺とリャンチィが部屋に戻った後そのままエッチになだれ込んでしまったから、後で聞いた話だからだ。
あの公開プロポーズのおかげで、ラオシェンは最近妙に機嫌が良い。
リャンチィは反対に後片付けを一手に引き受けてくれたラオシェンに頭が上がらなくなってしまったようだ。
そもそも噂の片割れであるラオシェンにも責任があるんだから、そんなに恐縮することないのにね。
妙に機嫌が良い理由は簡単だ。
俺とリャンチィの関係を証明する証人が偶然にも大量発生したため、事実の公表より噂話が先行して広がってくれたんだ。
だから、俺とリャンチィの婚姻の儀を盛大に挙げてしまおうという彼の元からの策略が、いたってスムーズに実現の運びになっている。
どうやら、俺とリャンチィの関係を知った当初から、ラオシェンとミェリィで密かに企んでいたらしい。
リャンチィはこのとおり控えめな性格だし、俺もそういう派手なのは遠慮したいタイプだったから、どうやって俺たちにそれを受け入れさせるかが目下の悩みだったとか。
確かに、二人をヤキモキさせてしまったのは事実だしね。
企画実行っていう大変な役割を担う彼らが楽しそうにしているから、好きにすれば良いさ、と思うよ。
お詫びの意味も込めて、この件に関しては玩具になるくらいは甘んじて受け入れよう。
あの日以来、大小合わせた変化が二つあった。
一つはリャンチィ。
あの日から一度も自宅に帰っていない。
俺の部屋の隣が丸々空き部屋なので、この部屋を掃除しつつ私物を少しずつ運び入れている状況だ。
つまり、隣同士の部屋に住むことになったわけ。
俺たち本人は同室で構わないと思っていて、実際一つのベッドで毎日同衾しているから、結局隣の部屋は物置部屋になるのだろう。
そちらの部屋の一回り小さなベッドは、たまに夫婦喧嘩をしたときにでも出番がやってくるのだろうと思われる。
もう一つは後宮だ。
住人だった妾妃三人全員に処払いが命じられた。
三階から五階までの広い後宮が閑散としてしまうのはもったいないけれど、ラオシェン王には不要な場所なのだからその措置は当然と思われる。
原因は第三妾妃の自殺騒動に他ならない。
事実無根の噂話に振り回されて国王と鳳王を巻き込んで修羅場を演じた一件はさすがに罪に問うことを免れず、その噂話をさも事実であるかのように誇張した他の二人の妾妃も同罪だというわけだ。
それはちょっとやりすぎな気もしなくもないけれど、後宮が不要なのは事実だから結果的には理想的な形に落ち着いた。
後宮がなくなったおかげで、人目を憚らずラオシェン夫婦と夕食を共にできるようになったのは嬉しい副産物だ。
この夫婦は夫婦という立場でいる時の感覚が庶民に近くて気が楽なんだよね。
リャンチィも国王命令と鳳王命令のダブルパンチに抗うことができずに同席している。
気が変わらないうちにとでも思ったのか、婚姻の儀が盛大に執り行われたのは一月後の吉日だった。
国民に愛される身近な守り神様の婚姻とあって、城下も地方都市もお祭りのような大騒ぎだったそうだ。
俺は王宮内でミェリィに楽しそうに着飾らされて窮屈な思いをしていたわけだけれどね。
リャンチィの花婿姿は、立派な体格が盛装に映えて見蕩れるくらいカッコ良かったから、足し引きするとプラスが勝つかも。
この素敵な人が俺の伴侶なんだ。
普段は控えめで真面目で落ち着いていて、でも一度思い切るとどこまでも張り切って暴走してくれる、ホント、理想的な旦那様。
「今日、異邦からの来訪者であるシンという一人の人間は、リャンチィという一人の人間の伴侶となります。
けれど、この鳳山王国の国王ラオシェンに仕える鳳王であるシンという守り神は、これまで通り国民の傍にあって皆の生活と国の平安を見守り続けることでしょう。
この国の守り神となれて、本当に良かった」
婚姻の儀の場にてコメントを求められた時の俺のこの台詞は、瞬く間に国中に広がって語り草になった。
俺としては、鳳王である公人とシンという私人の切り分けをそういう風に考えているのだという意思表示に過ぎなかったのだけれど。
思わぬ感動を呼んだのはラオシェンにとってもリャンチィにとっても同じだったようで、二人とも大げさなくらいに喜んでくれていた。
守るべき民に愛されて、仕えるべき国王とは親友のような関係で、頼れる素敵な伴侶を得て。
きっと俺は、この国の歴代でも一、二を争う幸せな鳳王なんだろうと思う。
こうして、一生をこの国で幸せに暮らせる幸運を胸に、俺は今日も元気に日常を満喫している。
おしまい
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