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 この国に来て一年が経って、実は俺の日課が一つ増えていた。
 煩わしくて自分自身嫌がっているため明言を避けてきたけれど、鳳王という立場からその日課を避ける訳にもいかない。
 何を期待しているのか、俺に謁見の申し込みをしてくる人がいるんだよ。

 そもそも俺に会いたがる人なんて立場が限られている。
 貴族階級か地方都市の領主か豪商と呼ばれる一部の成功者たち。
 そして、用件は判を押したように皆同じだった。

 曰く、我が娘を鳳王様の伴侶もしくは側室に召抱えて欲しい。

 冗談じゃない、と思う。
 正直な話、後宮でラオシェンとの謂れのない嫌味を言われている方が聞き流せる分マシだ。
 まったくの事実無根だから、ああそうですか、と聞いてさえいれば良い。
 けれど、こちらは断る理由が必要なんだ。
 今のところ、片思いしている相手がいるとか何とか誤魔化しているけれど、だからこそラオシェンがその相手なんじゃないかと余計に勘繰られてしまっていて始末に悪い。

 その日は、右大臣の近親筋に当たる貴族の面会を受けていた。
 親が出ていたのでは埒が明かないと思ったのか娘連れでの謁見だ。

 確かに豊満なボディを強調するドレス姿の女性は若い男には垂涎の目の保養なのだけれど。
 だから、俺がときめく相手はただ一人だってば。

「確かに仰るとおり、お美しくていらっしゃいますし教養もおありのようですし素晴らしい女性なのでしょう。それは誰の否定も必要ないものと私も思います。けれど、私には心に思う相手がいるのです。この心のままでお嬢さんをいただくことはお嬢さんをも傷つけることになりますでしょう。申し訳ありませんが、お引取りください」

 いつもいつも答えは同じ。
 いい加減諦めてくれよどいつもこいつも、と思うわけ。

 いつも通りの押し問答に疲れていた俺がやれやれと溜息を吐きかけた時だった。

 普段は謁見の制限時間まで姿を見せない侍従頭のローエンが、少し慌てた様子で俺の謁見の間に当てられた応接間に入ってきた。
 謁見中の妨害を恭しく詫びた後、俺に声をかける。

「鳳王様に後宮までご足労願うよう正妃様より火急のご伝言でございます。何でも、第三妾妃様がテラスにて今にも飛び降りようとしているとか。鳳王様に御目文字願いたいとのことでございます」

 そりゃ一大事だ。
 いくらなんでも自殺されては寝覚めが悪い。

「すぐに行く」

 今まさに謁見中ではあるけれど、どちらが優先かといえば考えるまでもなく人命最優先だ。
 そういうわけで、という挨拶もそこそこに俺はローエンに連れられて後宮に急いだ。
 謁見が中断されて悔しそうだった客人父娘も文句も言えずにただ呆然と見送るしかなかったようだ。

 後宮は王宮のなかでも生活スペースに当てられている棟の三階以上の上階にある。
 四階の屋根上に小さな中庭が作られて憩いの場になっているものの、一度後宮に入った妾妃は監視なしには外へ出られない。
 外の土を踏むことができるのは王の退出命令によって処払いを申し渡された時だとされているくらいだ。

 何故三階以上なのかといえば、もちろん脱出防止。
 ラオシェンの妾妃たちは自ら望んで後宮入りしているから脱出の心配などないけれど、歴代の王の後宮の中には無理やり妾妃とされて閉じ込められて脱出を図る人もいたそうだ。

 ちなみに俺の部屋は二階にある。
 ラオシェンの執務室兼私室は一階。
 親元を離れる年齢の王の子供たちも二階か一階に部屋があった。
 三階以上はまさに女の園だ。

 後宮内へ足を踏み入れることのできる男性は、王家近親筋にあたる侍従と現王の直系の子孫、鳳王とその護衛官に限られる。
 ミントゥは先王の姉の孫に当たるため入ることを許されているが侍従頭のローエンには資格がないわけだ。
 そういうことで、俺は後宮入り口でローエンと分かれ、リャンチィのみを引き連れて階段を上った。

 待っていたのはミントゥだった。
 普段は嫌がって立ち入らない彼も、この緊急事態で俺を案内するために来ていたようだ。

「どんな状況?」

「国王陛下も正妃様も総出で説得に当たっているのですが、鳳王様をお呼びせよとの一点張りで聞く耳を持ちません。本当に今にも飛び降りそうで危険な状態なのです」

 それはまた、なんとも緊迫した状況だ。
 とはいえ、そもそも自殺騒ぎの原因があの噂によるものなのだとすれば、まったく人騒がせなとしか感想の持ちようがない。
 事実無根だってあれほど言っているのに。
 大体、ラオシェンとミェリィの仲の良さを間近で見ていてどうしてそこに俺を割り込ませようとしているのか理解に苦しむよ。





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