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 叔父に手伝われて着替えた俺の服装は、叔父と似たり寄ったりの普通の格好だった。
 ちょっとレトロな感じもするが、別に奇抜なファッションとも言えない。

 本当は羽織袴なんだけどな、と苦笑した叔父に、俺は聞きたいことがたくさんあって、口をつぐんでいた。
 だって、これだけわけわからん状況だったら、どれから訊いたものやら、だ。

 服を持って来てくれたのは、俺の世話係だというミントゥだった。
 このくらいの年の少年に甲斐甲斐しく世話をされる経験なんてあるはずもなく、俺はなんだか気恥ずかしかったけれど。
 叔父はまったく気にした様子も無く、当然のようにミントゥに指示を出していた。

 それから、新しくお茶の用意をして、深々とお辞儀をして部屋を出て行ったミントゥを見送り、叔父は俺に席を勧める。
 俺はさっきと同じ席へ、叔父はさっきはラオシェンが座っていた席へ。

「まずは、俺の呼び名だけど。ユウだ。『叔父さん』は厳禁。それから、お前の呼び名はシンだ。どうせ、お前の名前はまだラオシェンと俺しか知らないしな。お前が慣れろ」

 呼び名なんかより、ここは一体どこなんだか、どうして叔父がここにいるんだか、の方が俺には重要なんだけど。

 なんかもう、そうやって断定されると刃向かう気も起きなくて、俺は適当に頷いた。
 それから、今度は俺から問いかける。

「それよりさ、叔父さん」

「だから『叔父さん』は厳禁だって言っただろうが。お前、人の話聞く気あるか? まさか姉さんのところから出るとは思わなかったから、教えられてないだろ、ここのこと」

 ん?

 ちょっと待て。
 
「それって、母さんの実家では常識の話なわけ? 知らないのは俺だけ?」

「鳳生家と鳳山王国王家との間の契約でね。鳳山王国の守護神である鳳王を差し出す代わり、鳳生家の繁栄を約束する、ってヤツだ。
 まぁ、もっとも、契約も何も、元々鳳生家の始祖はこっちの神様だったらしいけどな。その辺は、神話を勉強するうちにわかるさ」

 鳳生というのは、母の実家の苗字だ。
 確かに、田舎の野中の一軒屋だけれど、母屋に離れが三軒もつく大邸宅だし、周りの畑田んぼ、目に見えるその辺の山々まで、全部鳳生家の資産だった。
 山の向こうの繁華街に近い方には、食品加工会社の工場があって、全国的にその名を知られている山菜メーカーだったりする。

 うちの父親も、元々は冴えないサラリーマンだったんだけれど、母さんと結婚してからはとんとん拍子に出世して、今では自分で会社を興している。
 これに両親が付きっきりなわけだ。

「鳳王は、鳳山の国王一人に対して一人、生まれる事になってる。
 王が即位の儀を終えた後、自ら自分の鳳王に呼びかけるんだ。それまでは、誰がその鳳王かは誰にもわからない。
 だから、鳳生の血筋の者は全員、誰が選ばれても良いように、教育を受けるわけ。
 とはいってもねぇ、まさかリエシェンが事故死するとは誰も思わないじゃない。本来、後二十年は先の予定だったから、シンには話してなかったのかもね。姉さんは子供がそんな目に合うの嫌がってたし」

 だから、さっきそこにシンがいてびっくりしたんだよねぇ、とまるで他人事のように言って、叔父は軽く苦笑を浮かべた。

 ちなみに、これだけの説明を聞いても、俺にはちんぷんかんぷんだった。

「あのさ。鳳王って、何? 鳳山王国? なんか、さっき聞いたのと名前が違う」

「あぁ、そうか。お前、何も聞いてないんだもんな。
 悪かった。じゃあ、一から説明してやろう。疲れたら言えよ? 一度に聞いてもどうせ覚えられないから」

 さっきも一から説明されているつもりだったから、なんだか二度手間だと思いながら、とりあえずまずは叔父の説明を素直に聞くことにする。
 何にしろ、先輩の言うことは聞くべきだ。





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