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 翌日から、頭に子竜を乗せた俺の姿が王宮内で見られるようになった。
 もう、大きくなるまではずっとこの位置が定位置になるらしい。

 麓から子竜と一緒に戻った俺を迎えたラオシェンとユウとリャンチィはそれぞれに呆れたようだけれど、親に連れて行って欲しいと懇願されれば断れません。
 事情を説明して納得してもらった。

 ついでに、あの塔の天辺にある部屋も俺の持ち物に加えられた。
 大きくなったこの子竜の巣として使えば良い、ということだ。
 サイズ的にもピッタリだし、ありがたく頂戴することにした。

 リャンチィは相変わらず寡黙な護衛官として俺につき従って行動してくれる。
 常に一緒だから子竜もその存在を覚えたのだろう。
 時々はリャンチィ相手にじゃれ付くようになった。
 リャンチィ自身もこの子を可愛いという認識に異論はないようで、面倒そうでもなく構ってくれるのが嬉しい。

 ちなみに、子竜の名は結局ククと名付けられた。
 最初に口走ったのが悪かったのか、子竜本人がそれを気に入ってしまったのだ。
 いろいろと名前を考えてみたのだけれど、これに落ち着いた。
 動機は安直だけど、呼びやすいしまぁ良いや。

 そんなわけで、ユウの引越しも無事済み、二日に一度の王国内の見回りの日課も復活して、日常生活がちょっとした変化を起こしつつも戻ってきた。
 普段からお互いの部屋を気軽に行き来していた相手だからいなくなると寂しいけれど、彼にとっては亡き恋人の思い出が詰まった王宮内はやっぱり居辛いのだろうと思えば仕方のないことだ。
 引越し先はそんなに遠くない場所なので、ちょくちょく遊びに出かけている。

 先王の後宮が立ち退いたことでの開放感がやっぱりあるのだろう。
 近頃はラオシェンの後宮が賑やかだ。
 いや、物理的に騒がしいわけではなく、女の争いっていうかそういう陰湿なものが表に出始めたんだ。

 矛先は当たり前のように俺の方にも向けられた。
 鳳王という立場上、置かれた地位をあからさまに無視した苛めにはあっていないけれど、すれ違いざまの悪口とか遠まわしな嫌味とか使用人たちを通して聞こえてくる噂話とか。
 ミントゥも被害にあっているようで、苛々としている日が増えた。
 俺には八つ当たりしてこないけれど、腹を立てているのは見てわかる。

 それは、ラオシェン本人にまで影響が及んでいるらしい。

「我が子らを産んでくれた女たちであるが故に無碍にするわけにもいかないのですが、後宮に住まう特権階級にある自らの立場を鑑みて節度ある態度をとってもらうにはどうしたら良いものかと、近頃は毎晩頭を悩ませているのですよ」

 やれやれと首を振りながら訴えるのは、ラオシェンの執務室隣にある私室のリビングで差し向かいで酒盃を傾けている時のこと。
 まだ早い時間だからリャンチィも職務中で扉脇に待機しているし、ククも食卓の一角に置かれた自分の餌皿に顔を突っ込んでいる。

 ラオシェンを相手に夕飯を肴にして度の強い酒を楽しむのは珍しいことではないし、こうして会話を楽しみながらの食事から政策の一案がぽっと出てくることもあるから、ラオシェンの方がこんな一時を大事にしてるんだ。

 そこら辺の意図は、ラオシェンの本命にはラオシェン本人の口から明確に伝えられているから、嫉妬の対象にはならないで済んでいるらしい。
 事情を曲解している後宮の面々は言わずもがな。

 ラオシェンの本命の相手は、その正妃様だ。
 まだ幼い時分から知り合っている幼馴染のような存在で、俺がこの世界に来る一年前まですったもんだあった挙句、後宮に三人の妾妃を受け入れた末に成婚が叶った。
 だから、ラブラブの相手である正妃様がいるにもかかわらず後宮には妾妃が三人もいるわけだ。

 結婚してからのラオシェンは正妃様一筋で、後宮は育児場と化している。
 正妃の子はまだ一歳になったばかりの男の子一人だけで、他の一男三女は妾妃が産んだ子供たちだ。
 第二妾妃の子である長男が立太子しているから、彼女が将来の王母になる。
 それ故に後宮内でも実力者扱いなわけだけれど、なんとなく俺はこの人を好きになれないんだよね。
 女性の欲が前面に押し出されている感じがして、未来の王を育てる立場としてはあまり相応しくないように思えるんだ。

 まぁ、他人の家庭の事情に口を挟むほど俺は野暮じゃないつもりだし、そこは家長であるラオシェンに頑張ってもらわないとね。

「ミェリィは何て言ってるの?」

「世継ぎを産んでくれた人なのだからある程度の我侭は仕方がないだろうと。今までは父上の後宮が目を光らせてくだされていたのである程度で済んでいましたけれど、どうにも枷が外れすぎているように思えてなりません」

「そうだねぇ。最近はちょっと目に余るよねぇ」

 俺の返事が少し他人事っぽいのは、やっぱり男には女同士の確執ってよくわからないんだなぁ、と実感しているせい。
 だって、俺自身が思いっきり槍玉に挙げられているのに、さっぱり実感が湧かないんだ。
 何でこの女性たちはこんなにも真剣に争っているのだろう、って感じなんだよね。
 自分自身が思いっきり蚊帳の外にいる。

 気のない俺の返事に、ラオシェンは深く溜息をついてくれた。

「ご自身のことでしょうに」

「そうは言ってもさ。実際実感湧かないんだよ。俺が後宮に居ないせいなのかも知れないけどさ、自分のことだっていう気がしないわけ。俺よりミェリィでしょ。市井育ちの彼女が後宮の主として日がな一日後宮にこもって目を光らせてるわけだし。いくら気丈な女性だといってもあれは辛いよ。ちゃんと労ってる?」

「そちらはご心配には及びません。近頃は毎日彼女の部屋にて休んでおります。愚痴も聞かされますが、よく弁えてくれていて助かっていますよ」

「ミェリィは良い女だよねぇ。羨ましいよ」

「こればかりは粘りに粘って口説き落とした自分の手柄を称えたいですね」

 普段は謙遜ばかりの彼が堂々と胸を張るのは、いつもこの事だ。
 ラオシェンと正妃ミェリィの恋愛譚はそれだけで少女マンガのネタに最適な波乱万丈の物語だったらしい。
 もうすっかり鞘に収まった今だからこそ要約して話せるけれど、当時の彼らには大変だったみたいだ。





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