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後の判断は当事者同士の話し合いに委ねられたので、それで結論としたらしく、二人は何故か同時に俺を振り返った。
「それで、本題なんだけどね、シン」
え? 本題って、俺だったのか。
「な、何ですか?」
「俺の目下の心配事はお前たちのことなんだよ」
たち、というわりには俺だけに視線を向けるので、俺はその対象者が微妙に判断できず、首を傾げて返した。
それからラオシェンを見やる。
「ラオシェンじゃなくて、リャンチィ。お前たち、これからどうするつもりなんだ?」
いや、どうもこうも、鳳王と護衛官という今の立場は変わりようがないし、それ故に常に一緒に行動している分困ってないし。
このままで十分だけど。
あぁ、まぁ、ラオシェンに迷惑がかかってるのは自覚してるけど。
周囲の想像力が逞しすぎるのが悪いんであって、事実無根なんだからどうしようもない。
「どうもしませんけど?」
「それで良いのか?」
「良いって、逆に何か悪いですか? ラオシェンとのことは本当に事実無根ですし、リャンチィもそれはちゃんと理解してます。周りがどう騒ごうと俺たちには関係ない」
「ラオシェンもそれで良いの?」
「仕方がありませんよ。私とシン様の仲が良いのは事実ですし、私としては気の置けない友人だと思っていますからこの関係を壊すつもりもない。それに、叔父上とシン様のことは私自身はご本人たちが望むのであれば表立って祝福する心積もりがある。ただ、シン様は鳳王として国民に愛されるお立場ですから、そうそう自由に恋愛する余裕を持たせて差し上げられないのも事実です」
大体、付き合い始めてまだ半年。
普通の男女カップルだって恋愛に夢中な時期だろう。
俺自身はリャンチィ以外に考えられないからその先だって望みたいけれど、お互いの立場はどうしても障害になる。
俺が鳳王っていう国の守り神であることもそうだし、そもそもリャンチィだって俺の護衛官である以前に王族の一員なんだから、その一挙手一投足に国民の目が集まる立場に変わりがない。
天皇家に連なる皇族の人たちと立場は一緒だ。
自由な恋愛や自由な結婚はなかなか許されない。
俺たちが言うこともユウは理解しているのだろう。
それ以上は言及できずにうーんと唸った。
「じゃあ、問題は後宮内であの噂がほとんど事実として語られているってことだけか」
「ほとんど事実、ですか」
復唱して首をかしげたのはラオシェンだった。
俺も後宮には立ち入らないから、っていうかラオシェンの妾妃たちは俺は苦手なんだよ。
ラオシェンっていう男を巡っての女たちのバトルはそれはそれは醜いものがある。
ラオシェン自身をちゃんと見ていれば、この人が愛している相手なんて一目瞭然だろうにね。
わかっていても女たちのバトルを面白がって眺めている趣味の悪いラオシェンに、俺はただ呆れるしかない。
そりゃあ、いい歳して女に幻想を見ているような男に比べればずっと健全なんだけど。
「けれど、否定して見せても逆効果でしょう?」
「シンとリャンチィがさっさと結婚しちゃえば良いんだよ」
「……他人事だと思って」
そりゃまぁ、俺とラオシェンがラブラブだなんていう迷惑な噂を否定するのに、俺の相手を公表するっていうのは唯一の手段だろうし、それには結婚してしまうのが手っ取り早いのは否定しないけど。
ラオシェンとユウにこうして俺たちの関係を知られていることは、リャンチィにもまだ知られていない秘密なんだ。
一足飛びに結婚なんて、あの人にそんな覚悟を付けさせる自信が俺にはまだない。
「来週俺が引越しするのは決定だけどね、シン。この件だけが心残りだよ。早く俺を安心させてよね」
「……できる努力はしますよ」
この世界では、親代わりに近い人だし。
心配だといわれれば突き放すこともできなくて、俺は溜息と共に頷くしかなかった。
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