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俺がその叔父を、顔を見ただけでわかるのは、いつも写真で見ているからに他ならない。
母親の部屋に、叔父の写真が置いてあるんだ。
何故か、母方の家族揃った写真の中にはいなくて、叔父だけ単体。
なんでも、失踪中、なんだそうで。
最初は高校を卒業したばかりの時で、俺が小学生のときに一度だけひょっこり帰ってきて、一ヵ月もしないうちにまた行方不明になって、それっきり。
まさか、こんなところにいるなんて。予想もしなかった。
もうとっくにどこかで野垂れ死んでるんじゃないかって、失礼だけど、そう思っていたんだ。
だって、そうだろ?
小学生のときに一度会っただけの叔父だぜ?
思い入れがあるわけが無い。
ただ、ガキの頃会ったその時は、母の実家で山だとか川だとかに連れて行ってもらって遊んでもらった覚えはあるんだ。
それこそ泥んこになって。
夏休みだったからね、一日中遊んでた。
そういえば、宿題も手伝ってもらったな。
その年の自由研究は、手伝ってもらったこともあって、評価が良かったんだ。
山から拾ってきた木切れとかを使って置物を作っただけなんだけど。
母の実家は、田舎、って感じの田舎にある。
近所に小川が流れていて、周りは田んぼだらけで、ちょっと行くと裏山があって。
毎日が大冒険だった。
その叔父だ。
それが、目の前にひょっこり現れたんだから、びっくりしないわけが無い。
叔父は、この世界に住んでいるらしく、ミントゥが着ていたような服をもっとザックリとラフな感じに着崩していた。
違うのは、肩にかけた薄手のストールくらい。
叔父を振り返ってみて、ラオシェンは少し呆れた表情を見せた。
「母上。父上が見たら怒りますよ、そんな格好をしていたら」
母上ぇ?
悪い、今度こそ、驚いた。
ちょっとまて、叔父さんは男だぞ。
何故、母!?
「良いじゃん、別に。外に出るわけでもなし。あんまり堅苦しいこと言うなよ」
っていうか、叔父さんも。
何でそんなに平然と答えてんの。
っていうか、まさか、本当に母親!?
「あらら。ラオシェンのフェンワンはシンかよ」
「シン?」
「そう。晋作だからシン」
「あぁ、母上がユウなのと同じですね」
目を白黒させている俺を放っておいて、親子はほのぼのとそんなやり取りをしていた。そのほのぼのさ加減に脱力。
そのうち、ラオシェンは自分の分のお茶を飲み干して、立ち上がった。
「では、私は仕事に戻ります。母上、後はお願いします」
「良いけど、どこまで話した?」
「自己紹介くらいですよ」
そ、と叔父の反応はあっさりしたもので、部屋を出て行くラオシェンにひらひらと手を振った。
俺はといえば、ただただ呆然と、それを眺めているしか出来なかった。
改めて俺を見やって、叔父は俺の全身を舐めるように眺め、ぼそりと一言。
「とりあえず、着替えようか」
言われて見下ろした俺の姿は、ネグリジェのままだった。
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