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 今俺がいる場所は、塔といっても尖塔ではなくて太さ六畳くらい、屋根も平らにできていて水はけの良いように多少傾斜がある程度、高さだけ宮中で一番高い。
 その屋根の上に俺は寝転がっていたわけだ。

 すぐ下から俺を呼ぶラオシェンの声が聞こえて、俺は屋根の端から顔を出して下の部屋を覗きこんだ。
 逆さまに顔を見せた俺を見上げて、ラオシェンも慣れたもので少し呆れた表情を見せ、手に持ったバスケットを掲げて見せた。

「やはりここでしたね。お昼ご飯にいたしましょう」

 行方不明の俺を探して来た、というよりは、ほぼ確信に近い予測でわざわざ塔を上ってきたようだ。
 まぁ、ラオシェンにここを教えてもらってからは暇があるとここで空を眺めているから、予測も簡単なのだろうけれど。

 最初のうちは危ないですよと注意されていたけれど、今ではラオシェンも護衛官であるリャンチィも何も言わなくなった。
 手すりもないし足を滑らせれば中庭まで真っ逆さまな場所だけれど、そもそも俺は鳥だからね。
 落ちても空中で変身してしまえば地面に叩きつけられることはない。

 鳥に変身できるようになって、一番の身体の変化はその視力だった。
 人間体にも影響はあって、今の俺の目は鳥目に近い。
 夜目は人間であるからそこそこ利くけど、それよりも遠距離視力が格段に上がって動体視力は自分で驚くくらいだ。
 だから、事故に対する反射神経も格段に上がっている。
 一番それを実感するのは夕方の武術訓練で、技が当たらなくなったとみんなに言われた。

 だから、ちょっと無茶な身体の動かし方が平然とできる。
 屋根に手をついて身体を一ひねりして、俺は下の部屋のテラスにふわっと下りた。

「引越しはまだまだかかりそう?」

「そのようですね。男手の限られる後宮ですから叔父上などは引っ張りだこですよ」

 穏やかに微笑んで食卓を準備しながら明かされるその情報に、俺は遅ればせながら手伝いの手を伸ばしつつ苦笑を返す。

「じゃあ、夜はマッサージでもしてやろうかな」

「頑張ったご褒美に、上に乗って差し上げたらいかがです? たいそう喜びますよ」

「もう。ラオシェンってば昼間っから大胆なんだから」

「伊達に子沢山ではございません。そもそも、こんなことをお話できるのはシン様だけですよ」

 際どいどころか明らかにアウトな会話を日が高いどころか頂点にあるような時間帯に涼しい顔でやりとりするあたり、遠慮の要らない男友達の地位は疑いようもない。

 今日の引越しというのは、随分と大掛かりなものだ。
 今までは前王リエシェンの急死の影響で残された後宮の行き場がなくこの王宮内に残ったままだったのだけれど、その人たちが移り住むべき隠宮が先日完成したのだ。
 で、占いの結果今日が良い日取りだということで集団転居に相成ったわけである。

 普通であれば、王の死後にその後宮専用の隠宮を建設するなどという面倒はかからない。
 大抵一棟か二棟は空いているから、そこへ引っ越せば良い話だ。
 けれど、ここ三代の代替わり頻度が異常だったおかげで、計四つあった隠宮がすべて埋まっていたのだ。
 しかもそのうちの二つには元王自身が住んでいたのだから共有させてもらうわけにも行かず。
 今回厳しい財政をやりくりして五棟目の隠宮を作る運びになったわけだ。

 ということは、この世界に来て今までの一年を支えてくれた叔父も引っ越していってしまうということなのだけれど。
 それは少し寂しい。

 まぁともかく。

 今日のお昼ご飯は引越しの片手間に食べられる簡単なものになっている。
 ていうか、どう見てもサンドイッチ。
 この王宮の料理長の発想力はすばらしいものがある。

「今日はラオシェンも忙しいの?」

「いいえ。後宮での騒ぎに問題を増やすわけにもいきませんし、本日は王宮内立ち入り制限命令を出しています。従いまして、仕事も開店休業状態ですよ」

「じゃ、ぶっちゃけ暇?」

「えぇ。非常に」

 やった。遊び相手発見。
 執務室へ遊びに行っても良いかと問えば、歓迎するとの返事をもらった。

「少しご相談したいこともあったのですよ」

「仕事?」

「いえ。もう少し厄介ごとです」

「じゃ、噂の件か」

「はい」

 申し訳なさそうに頷くラオシェンに、火はなくとも煙を立てた自覚はある俺としては彼だけに責任を擦り付けるわけにもいかず、苦笑いで受け止めるしかなかった。





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