Imprisoned Kingdom 1




 城内にある塔の天辺に上って、俺は流れていく低い雲を眺めていた。

 階下では集団転居作業でバタバタしていて俺の居場所はない。
 手伝おうにも、鳳王様の手を煩わせるなんてとんでもないだとか、重い荷物なんて持たせられないだとか、なんだかんだと理由をつけて固辞されてしまう。
 だったら邪魔にならないように出かけようかと思ったけれど、常にそばにつき従うべき俺の護衛官は引越しの手伝いに借り出されて朝から忙しそうにしていて、宮中を出ることも叶わない。

 つまり、俺は非常に暇だった。
 侍従のミントゥすらいないので、お茶も飲めないんだ。
 自分で淹れれば良いんだろうけど、お湯をどこにもらいに行ったら良いのかわからない。

 普段が忙しくしているから、今日はホントに退屈だ。




 俺の名は高杉晋作。

 このフェンシャン王国の守り神である鳳王である。

 元々は日本の私立大学で不良大学生をしていたのだけれど、母方の祖先とこの国の建国史に深く関わる契約に従ってこちらの世界に引っ張り込まれ、当代国王の鳳王となった。
 いろいろな偶然が重なって鳥に変身するというとんでもない異能力を手に入れたものの、そもそも精霊に属する鳳には特別な力なんて特になく、できることは飛ぶことと歌うことくらい。
 この文明レベルの遅れた世界で日本で培った知識と技術を駆使して政治に助言するくらいの干渉度で、日々を平和に生きている。

 今の俺の日課は、二日に一度国内を空を飛んで見回ることと国民との交流、夕方は親衛隊の皆と武術訓練に汗を流し、後は趣味で原始的なカメラを製造するくらいだ。
 なにやら不思議な神の手が働いて一晩だけ日本に出かけることがあって、愛機と周辺資材を持ち帰ってきたから、カメラの構造分析とかもかなりスムーズにできるようになった。

 しかし、電池の要らないカメラを持っていて良かった。
 アナログ感が気に入って持っていたのだけれど、これが今一番役に立っている。

 実は、このカメラの製造にはちょっとした紆余曲折があったんだ。
 そもそも、守り神様のお手伝いという名目は国民にとっての最優先事項であるらしく、印画紙やフィルムの開発には多くの研究者の手がかかっている。
 これが当初、お偉方の反感を買った。
 けれど、その研究の過程で上質な紙や薄手の油紙などの副産物が生まれていて民の生活にも少なからず貢献しているし、近い将来の主要な輸出品として期待されているため、今では頭の固いお偉方の不満も鳴りを潜めてきていた。
 最初の頃は今代の守り神は我侭放題だとか王の許可を取るのに色仕掛けでもしたのだろうとか散々に言われたのを知っているから、そんな連中に気を許す気はさらさらない。

 王国の見回りの方は、国民にもだいぶ認知されていてどこへ行っても大歓迎を受ける。
 政治をする立場にとっては煙たい存在であろう守り神だが、国民にとっては平和の象徴でありその存在自体が有難いものだ。
 そんな雲の上にいるような存在が手の触れられるほどすぐそばにあれば、民にとってこれほど喜ばしいものはない。
 まぁ天皇陛下みたいな立場だと思えば自分の振舞うべき言動も把握しやすいというものだ。

 そんな俺が仕える国王は俺より少し年上ではあるもののほぼ同年代で、親友か兄弟くらいの親しい付き合いをしている。
 彼、ラオシェン王が後宮に渡らない日は大体、俺の部屋かラオシェンの部屋で酒片手に語り合ったりしているわけだ。
 おかげさまで変な噂が飛んでいたりするけれど、事実無根なのであまり気にしない。
 だって、ラオシェン相手じゃときめかないし。

 俺がときめく相手なんて、たった一人だけなんだから。





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