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 五日後。

 王宮に犯罪者が引き立てられてきた。平和だったフェンシャン王国で初めて捕まった山賊団の頭目だという。

 本来は地方の裁判所で刑を確定され、そのまま刑務所に収容されるはずだった。
 だが、この国で初めての、という貴重な存在であると共に、守り神である鳳王が捕まえたという事実がきっかけとなり、国王ラオシェンが呼び立てたのだ。

 国王の前に引き立てられた頭目は、官吏に左右から拘束された状態で、不機嫌そうにそっぽを向いた。

「山賊。名を名乗れ」

 傍らにシンを呼びつけての謁見に際し、ラオシェンはそう切り出した。

 もちろん、山賊としての面子もあるのだろう。
 頭目はただ口をつぐんだまま、反応を返さない。

 ラオシェンは小さくため息をつくと、言葉を変えた。

「その髪の色は、異国人だな? わが国の宿無しどもを率いていたと聞く。山賊行為は許されるものではないが、わが国の国民を纏め上げてくれたことには礼を申そう」

 犯罪者に対して礼を言う国王など前代未聞。
 我が耳を疑ったらしい山賊の頭目は、思わず顔を上げた。
 そこに見えたのは、自分を易々とひっくり返した守り神と、国王というには実に若い国王だった。

「お前には、これから刑務所に赴いてもらう。お前の刑期は十五年と定められた。
 そこで取引だ。
 お前に行ってもらう刑務所で、実験的に労務を課すことになったのだ。そこで、受刑者たちをまとめてみせよ。
 成績が良ければ刑期を軽くしてやっても良い。見所があると見れば、刑期後の就職先も世話しよう。お前が起業を望むならお前の身柄を証明する書類を発行してもやろう。
 お前に悪い取引ではあるまい? 応じないなら刑期は十五年。その後は国外追放だ。
 どうする?」

「……本気か?」

「あぁ、本気だとも。疑うのなら存分に疑えば良い。お前が応じようと応じるまいと、取引は有効だ。刑務所でゆっくり考えるといい」

 再び、どうする?と訊ねられた山賊は、半信半疑ながら、ようやく頷いた。
 ラオシェンも、満足そうに頷く。

「再度訊ねる。山賊、名を何と申す」

「マイクだ。マイク・ジェファーソン」

「覚えておこう」

 会見は、以上だった。

 山賊マイクが出て行く後姿を見送って、ラオシェンは傍らに立つシンを見やり、片方の眉を上げてみせる。
 どうだ?と少し自慢げな表情だ。

「いかがでしょう、シン様」

「上出来なんじゃない? っていうか、労役なんていつ決定してたの?」

「まだ実験段階です。
 それに、施設内職も実験的にいくつかの施設で始めることにしました。子供たちが楽しんで取り組めるよう、草花の栽培や造花の創作などから始めてみようと思います。幸い、施設は郊外に建設しましたから土地は余っていますし」

「うん、良いんじゃないかな。実を結ぶと良いね」

「それは、今後の活動次第でしょう。今後も、シン様にはご助言いただきたいと思いますが、いかがでしょう?」

「俺が言いだしっぺだしね。良いよ、引き受ける」

 シンにとっては、所詮は思いつきでラオシェンに提案したことだ。
 これが現実味を帯びてきたとなれば、シンの責任も重大。

 だが、元々好奇心と責任感は人一倍旺盛だったシンのことだ。
 これからも楽しんで取り組んでいくに違いない。
 一日おきに繰り返している国内の見回りのように。

 過去の鳳王を振り返っても、ここまで内政に協力的だった鳳王はいない。
 自分は部外者である、と遠慮したのかもしれないが、せっかくこの国より発達した文明の中で生きてきた経験があるのだ。
 活かさないのはもったいないというものだ。

 それに、当の国王が鳳王の口出しを快く受け入れて、それどころか助言を請うほどなのだから。
 問題はきっと何も無いのだろう。

「シン様。今後とも、わが国のためにご尽力ください」

「今更おかしなこと言うね、ラオシェン。俺だってこの国の国民だよ。自分の国を良くするために、力は惜しまないよ」

 もしかしたら、国王と鳳王がこれほどまでに仲の良かった時代も、なかったのかも知れない。





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