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親衛隊の面々がぞろぞろと隊列を組んで街中を行進して行き、それを町人たちが道の左右に集まって見送ってくれる。
気の良いおばちゃんたちが、頑張って、と気軽に声をかけてくれるところが、この国の良いところだと思う。
支配者階級と町人たちとの垣根が低い証拠だ。
俺は、自分一人では馬に乗れないので、リャンチィの馬に一緒に乗せてもらった。
空を飛ぶにしても、王都を取り囲む城壁の外へ出てからだ。
これはこれで大事なセレモニーだからね、軽視するわけには行かない。
俺とラオシェンが揃って戦場に赴く姿は、それだけで国の一大事を思わせるらしい。
町人たちの表情は固く不安そうに見える。
急いでいる隊列は、足早に大通りを外壁の大門まで通り抜け、背後で重い扉が閉まった。
リャンチィが乗ってきた馬はそこの門番に預け、俺は親衛隊のみんなの見守る中、鳥の姿に変身して宙を一周し、リャンチィを迎えに地上に降りた。
ちなみに、鳥の姿のままではしゃべれない。
乗りやすいように身体を伏せると、俺の意図を汲んで背中に登って来てくれる。
「シン様。先導をお願いします」
近くにいたラオシェンにそう言われて、俺は翼を広げ、ゆっくりはばたいた。
空を飛ぶこと自体二度目だから、人を乗せるのは初めてで、どうすると背中にいる人に負担を与えないのかわからない。
ので、かなり自分の中では慎重。
「全軍出発」
ラオシェンの号令で、親衛隊の面々は隊列を組んで歩き出す。
相手が街道を避けるなら、こちらは街道を通って。
何しろ全員が騎馬。
で、整備された道の上だから歩きやすく、向こうから近づいてきてくれているから距離も近い。
もちろん急ぎ足ではあるけれど、草原の向こうに奴らの姿を見つけるまで、二時間もかからなかった。
背後から急襲する手はずになっているから、俺たちは奴らとはすれ違うようにその先に進み、完全に背後になったところで草原に踏み込んだ。
馬具は少し音を立てているが、装備を身軽にして動くときの音を立てないように配慮しているため、自然と口数も少なくなる。
ラオシェンが手を挙げたことで、これだけの人数にもかかわらず、水を打ったように静まった。
作戦開始だ。
ゆっくり、隊列の後方に回り込む。
俺も、地面すれすれの低空飛行で奴らの目を逃れ、仲間たちの側に従った。
馬で駆ければ一瞬で到着する距離まで近づいて。
長く伸びた首を曲げてラオシェンを見れば、ラオシェンも俺の視線に気付いて頷いた。
翼をひと羽ばたきして、空へ舞い上がる。
奴らに気付かれたところで、向こうが行動する前にこっちが動ける至近距離だ。
リャンチィが俺にしがみついているのを確認して、直滑降。
まっすぐ幌荷馬車の後ろに突っ込んだ。
荷馬車の外から、わぁっと喊声が上がった。
馬車の中には、縛られた叔父とよほど抵抗したらしく息も絶え絶えの叔父の護衛官と、見張りらしい屈強な男が一人。
俺の背中を飛び降りざま、リャンチィはその男に切りかかった。
俺も変身をといて、リャンチィの背中から剣を受け取り、人質に駆け寄る。
人が十人くらいは乗れるサイズの馬車だけれど、それでも大立ち回りを出来るスペースなどなく、先制攻撃した方に軍配が上がる。
「リャンチィ。殺さないで」
「はいっ」
俺に言われるまでも無くそのつもりだったんだろう。
振り下ろした剣は平を向いていて、思ってもいなかった襲撃にパニック状態だった見張りの男は、したたかに打ち付けられて目を回した。
くたばっている男はそのままに、俺は叔父の手を縛っている縄を剣で切り落とす。
リャンチィは叔父の護衛官のメイトウを助け起こしている。
猿轡をはずすと、やっと息ができたというように、叔父は急いで息を吸った。
「悪い、シン」
「いえ。みんな無事なうちに助けられて良かったです」
だいぶ精神的に参っていたんだろう、憔悴した表情で、それがすごく痛々しかった。
周りは、金属のこすれあう音で騒然としていて、いつの間にか停まっていた馬車は、外とは切り離されてしまったように穏やかだ。
落ち着くまでここにいたほうが安全だと思う。
こっちには怪我人がいるんだから。
「シン様は、ここにいてください。外を手伝ってきます」
メイトウに掛けられた縄を使って見張りの男を縛り上げたリャンチィが、立ち上がって馬車の後ろに向かう。
俺はそれを引き止める口実を知らなくて、ただ頷くだけだ。
「気をつけて」
「はい」
ひらりと飛び降りたリャンチィの姿は、再び降りた幕に遮られて見えなくなった。
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