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 疲れて泥のように眠ると、次の日は意外と早起きの俺は、思ったとおり、いつもよりずいぶん早い時間に目を覚ました。

 土地が土地だけに、年中同じくらいの気温でほんわか小春日和なんだけれど、今日はなんだか普段よりもあたたかくて、目を開けて驚いた。

 目の前に、人の胸があった。

 久しぶりに心底驚いた。
 起きたばかりだというのに、心臓バクバクいってる。

 考えてみるまでもなく、それはリャンチィだった。
 腕を絡めるくらいの接近度で一緒に眠ったのだから、寝相によってはそれもありえることだ。

 ちょうど、俺自身がリャンチィの抱き枕になっていた。
 足こそ絡んでいないものの、背中に腕が回って抱き寄せられている。

 思わぬ至福の時。
 好きな人の体温を、こんなに近くで感じられるなんて。
 無理やり行為を迫ってしまった瞬間に、自分の想いが成就することなど夢のまた夢と放棄していたから、降って湧いた奇跡に、感動すらしてしまう。

 できるだけ長く、この幸せな一時を続けていたくて、俺は息を潜めてリャンチィが目を覚ますまで待つことにした。
 一時間でも二時間でも、ゆっくり寝ていて良いからね、と思いながら。

 とはいえ、邪な想いなどそう簡単に報われるものでもなく。
 俺が目を覚ましたのに気付いたらしく、リャンチィも程なくして目を覚ました。
 自分が俺を抱き寄せているのに気づき、目を覚ました途端に大慌てで離れてしまった。
 しかも、土下座でもしそうな勢い。放っておいたら切腹くらいするんじゃないだろうか。

「申し訳ありません! お苦しくありませんでしたか?」

「全然。人肌が気持ちよかったよ。おはよう、リャンチィ。良く眠れた?」

「……はい。おかげさまで」

 俺が目を覚ました後も眠っていた自覚があるらしい。
 俺を抱き枕にして気持ち良さそうに眠っていて、否定も出来ないんだろう。
 かなり不本意そうに返してくるから、思わず笑ってしまった。

「リャンチィ。昨日お風呂入った?」

 昨日は、入浴している隙なんて無かった。
 唯一俺が知らないのは、気絶してからラオシェンにさらわれている間のほんのわずかな時間。
 首を振るのは想像のうちだった。

「風呂の用意をさせてないから水風呂だと思うけど、入っておいで。着替えを用意しておいてあげる」

「いえ、しかし……」

「一度家に帰ってる時間なんてないでしょう? その格好で、会議に出るつもり?」

 外を見れば、いつもよりは早い時刻だけれど、それでも日はすでに昇っている。
 午前中には対策会議が始まる予定だし、昨夜強制送還しそこねていて、ここで俺を仲間はずれにするほどラオシェンは馬鹿ではない。

 となれば、拒否の余地がないことはリャンチィにも理解できたらしく。
 お借りします、と少し項垂れた様子で断って、隣の部屋に消えていった。

 俺も後で入ろう、と思いながら、寝巻き姿のまま居間へ出る。
 いつも俺が起きる時間に合わせて朝食の支度をしてくれるミントゥがそこにいて、珍しく早起きな俺に深々と頭を下げた。

「おはようございます、シン様」

「おはよう、ミントゥ」

 寝巻きのままそこに現れたことで、自分に何事か急な用事なのだろうとあたりをつけてくれるところが、さすが俺の侍従を任されるだけのことはある。
 命令を聞く体勢になった彼に、俺は目の前で手を合わせた。

「昨日、ユウが誘拐されたって聞いて気が動転してしまって、リャンチィに部屋にいてもらったんだ。で、この時間だから家に帰ってる時間もないし」

「リャンチィ様のお着替えですか?」

 みなまで言わなくても悟ってくれるあたり、かなり優秀だ。
 これで十五歳だそうなんだから、きっと将来は国に無くてはならない高官となるのだろう。

 少しお待ちください、といって早々に部屋を出て行くその足取りは、どうやら入手先に目星がついているらしい。
 見送って、俺は寝室へ戻る。

 しばらく待てば、着替えより先にリャンチィが風呂から出てきてしまった。
 バスタオルサイズの布を腰に巻いた姿は、男の色気でかなり色っぽい。
 思わず見とれてしまう。

 見とれている俺の目がハートマークになってるのがばれないうちに、俺は入れ替わるように風呂場に向かう。

「今ミントゥが服を取りに行ってくれてるから、ちょっと待ってて。俺も水浴びてくるよ」

「では、お背中を流しましょう」

「良いよ、寝汗落とすだけだから。水浴びた後そんな格好でずっといたら、風邪引くよ」

 ぺちっと良い音を立てて、張りのある肩を叩き、風呂場の戸を開く。
 入れ違いに、どうやらミントゥが戻ってきたらしく、俺とリャンチィを呼ぶ声が聞こえてきた。





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