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 瞳に誘われて、薄い唇に口付けて。
 これ以上は、我慢が効かなかった。
 自制するつもりだったなんて、言っても誰も信用しないだろうほどに、貪ってしまう。
 同い年で、恋愛経験がないと告白した彼の、きっとはじめてのディープキス。
 絡めた舌が解けない。

 だらりと垂れた手を取って、俺のはだけた胸に直に当てる。心臓の上に。

 もう片方の手で、リャンチィの服もボタンをはずす。
 露わになった首筋に、キスの場所を移して。

「触って。あたたかいでしょう?」

 俺にとっても実ははじめてのディープキスで、反対に俺のほうが煽られてしまった。
 もっと触りたくて、乱暴に服を脱がせてしまう。
 自分も、あっという間に脱いで、服をベッドの下に放った。

 触った彼の股間は、熱く膨らんでいた。それが、嬉しかった。

 自分のは、言わずもがな。

 ズボンも下着も一緒に脱がせて、自分も脱いで。
 恥ずかしがってそっぽを向いてしまったリャンチィの、されるがままの身体に、丁寧に愛撫を施す。
 股間の茂みで息づくそれに、キスをする。

「シン様っ!?」
 身体の大きさに比例するのか、自分のものより大きなそれを、口に咥えてみた。
 なんだかとても愛しくて、舌先でペロペロと舐めてみる。
 っていうか、口も舌も、勝手に動く。

 緊張と快感で身体を硬くしているリャンチィがこちらを見ていないのを確認して、俺は自分の尻に手を伸ばした。

 確かに、元々そういう趣味はないけれど、知識としては、男同士のセックスでどこを使うかなんて、さすがに知っている。
 初めてだから、痛みを紛らわすすべなんて知らない。
 でも、こうするしかないんだ。

 自分で入れてみた指に、自分が傷ついて、思わず呻き声を上げてしまう。
 それで、何をしているかばれてしまった。

「シン様、ダメです。私にしてくださいと言ったじゃないですか」

「イヤ。傷つけたくないなら、リャンチィがしてよ。してくれないなら、自分でする」

 完璧、襲い受けってヤツ。
 血は争えないよね。叔父と同じことしてるんだ。

 結局、リャンチィの方が根負けだった。

「じっとしていてください。痛みを感じさせたくない」

 体勢逆転。
 ころりと転がって反転して、さっきが初めてとは思えない、蕩けるようなキスをしてくれる。
 そうして、何故か俺をそのままに、ベッドを降りてしまった。

「リャンチィ?」

 裸のまま、彼が向かったのは戸口ではなく俺の化粧棚。
 もちろん化粧をするわけではないけれど、肌荒れを防ぐ香油とかがしまってある。
 その、香油を取って戻ってきた。

 あ、潤滑油。忘れてた。

 もしかして、この世界って男同士が珍しくないのか?

 いや、たぶん叔父の影響だな。うん。
 名付け親なくらいには親密な関係なんだから、影響も受けるだろう。

「痛かったら言ってください」

「痛いって言ったらやめるなら、絶対言わない」

 変なところで、頑固だよ、俺は。
 仕方がないですね、というように目を細めたリャンチィは、それからは、俺の身体に愛撫を施すのに専念してしまって、俺は俺でされるがまま身を任せて。

 押し広げられる感覚は、やっぱり少し恐かったけれど、相手がリャンチィだから、俺のすることといえばすがり付いて息をつくだけ。
 人の肌があたたかくて、リャンチィの心臓の音に安心する。

「大丈夫ですか?」

「ん。……良いよ」

 俺の許可を受けて、リャンチィは俺をうつぶせて背後に行ってしまった。
 もちろん、その格好のほうが楽なのはわかるけど。
 あたたかい人肌に触れていて安心していたのに急に離れてしまったから、思わず不満の声を上げてしまった。

 不満の理由がわかったのだろう。
 大丈夫だから、と宥めて、背中を撫でられて。
 背中から抱きしめられて、ほっとする。

 指なんて比較にならない質量が、押し入ってくるのがわかる。
 内臓を押し込まれるような強烈な感覚に、うめき声すら出なかった。
 ただ、息をつくのに精一杯。

「痛い?」

 気遣う声が敬語じゃない。
 そんな些細なことが嬉しくて、俺は少し笑った。
 笑った反動で力が抜けて、奥まで入りきっていなかったそれが、深く突き刺さってくる。
 それこそ、貫かれる、という言葉がぴったり合う。

 でも、痛いわけではなくて、俺は力いっぱい首を振った。
 ぱさぱさと、首を隠すくらいに伸びていた髪がシーツを叩く。

「苦しい?」

「っ……ちょ……と」

 それは、確かにちょっと苦しいから、素直に答える。
 と、何故かリャンチィには笑われてしまった。
 もう少しだけ我慢して、と子供に諭すように囁かれて、今は俺の中に埋め込まれたそれに比べればちょっと貧弱な、俺のモノにも手が伸びてくる。

 苦しさに耐えかねて少し萎えかけていたそれが、構ってもらえたことに喜んで背を伸ばす。
 自分のモノながら、情けないくらい欲望に忠実なヤツだ。

 俺のがまた反応しはじめたのを見て、俺の中のリャンチィの分身が、ずるっと動き出した。
 せっかく入れたモノが、引き抜かれていく。
 内臓ごと引きずられるような変な感覚に、俺は目の前の枕を抱きしめる。
 動かれたくなくて、身体が勝手に彼のモノを引き止めて。

 背中でくすっと笑われた。

「引き止めたいの?」

「……え?」

「だって。吸い付いてくる」

 ほら、って言いながら、また引き抜こうとするし。
 もう少し力を入れてくれれば簡単に抜けるのに、力加減絶妙だし。

 あぁ、もう。そんなに焦らさないでよ。

「ね。……ちゃんと、して?」

「こう?」

 ぐいって腰を掴まれて、腰骨が当たるくらい突き上げられて。
 声が我慢できなくて。

「ああぁぁぁっ!」

「ん。可愛い声。もっと聞かせて」

 いつも敬語のこの人が、あま〜い口調で煽り文句を囁いたら、腰砕けになっちゃう。
 思わずはしたないおねだりを口走りそうになってしまう。

 さっきの声で、声を我慢すること自体を忘れてしまって、息をするたびに自分の喉から自分のものとも思えない色っぽい声が溢れてきて、自分の声に煽られて。

 しかも、俺の声に素直に煽られてくれた彼に、強引に動いてもらえるようになってからは、すっかり任せてしまった。

 だって、気持ちいい。
 苦しかったはずなのに、いつのまにか、すごく、気持ちいい。

 男の力強さで突き上げられるのに任せて、頭がぼうっとしてくる。
 気持ちよくて、それ以外何も考えられなくなってくる。

 これが、必要に迫られてする義務のようなモノではなくて、気持ちの通じ合った恋人同士のセックスだったら良かったのに。

 それがちょっとだけ悲しくて、ひときわ激しく突き上げられて嬌声をあげながら、涙をこぼしていた。





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