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翌日もまた朝っぱらから叩き起こされて、式典の準備にてんやわんやになった。
昨日の教訓から、早い時間に寝かされはしたんだけれど。
夜中に寝る癖がついてるから、そんな早い時間にベッドに入っても寝れるわけがないんだ。
寝酒も無効だった。
まずは生活習慣を改善するところからだな、って叔父は呆れてそう俺に言い渡した。
侍女に手伝われて禊をして、この世界の盛装に比べれば随分と地味な着物に袖を通す。
ちなみに、着方は知っているから、手伝い不要だ。
ガキのころから剣道とか合気道とかしてるし、そもそも俺は和装が好きなんだ。
着物も何着か持っていて、受け狙いに着たりする。
びしっと襟が立った着物は、俺の心も自然と引き締めた。
うだうだと長引いていた眠気が、嘘のように無くなった。
その俺の様子に、またもや叔父は呆れたようで。
「これから毎日着物で暮らす? 意識的に生活習慣変えるより、簡単にまともになると思うな、俺」
ふむ。それには同意見だな。
「ま、慣れさせるよりはここぞという時に使った方が効果的か。覚えとこう」
あぁ、着物生活案はどうやらあっという間に廃案らしい。残念だ。
着替えてからしばらくは部屋で叔父と無駄話をしていた。
そこへ、ノックの音が聞こえてきて。
現れたのは、一昨日の夜に俺と語り合ったあの人だった。
リャンチィ。
そういえば、親衛隊の副隊長だっけ。
「フェンワン。お迎えに上がりました」
一昨日の打ち解けた感じが嘘のように、びしっと畏まって俺たちに一礼をする彼は、さすが王族の血を引く軍人で、カッコイイ。
自分自身が、いくら鍛えてもカッコ良さとは程遠い外見に悩んでいたから、これぞ理想、が目の前にいて、思わず見入ってしまう。
見つめていたら、恥ずかしそうに目を背けられてしまったけれど。
「シン。そんな熱い眼差しで見つめたら、リャンチィが気の毒だよ」
あはは、と楽しそうに叔父が笑うから、俺もはっと我に返って顔を赤らめてしまった。
リャンチィの方は、すでに体勢も立て直していて、もう一度一礼する。
「お支度よろしいですか?」
その流暢な日本語は、儀式だからそこだけを一生懸命練習したのだろう。
一昨日の片言日本語を聞いている俺は、そこまで頑張るだけの大事な儀式であることを、彼の日本語から感じ取らされて、身が引き締まる。
部屋を出た途端に、外に控えていた兵士たちに前後を守られて、一歩先を行くリャンチィに従い、俺はゆっくり歩き出した。
少し後ろから付いてくる叔父の気配を確かめながら。
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