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その一報は、関東双勇会総長へは直接黄から、大倉組事務所で仕事中だった貴文へは東翁からもたらされた。
事務所で普段通りの決済事務を片付けそろそろ帰ろうとしていた貴文は、もうすぐ終わるという最後の仕事を速攻で片付けて本家屋敷へ駆けつけた。
七瀬と雄太には見た目が華奢なおかげで狙われやすいとの判断で携帯電話と身につけるアクセサリー類に発信機が仕込んである。
携帯電話の発信機は電話機の電源から電力を取得できる分広範囲に電波を発信できるのだが、これは真っ先に捨てられたようで動く気配がない。
念のため向かわせた舎弟から携帯電話を見つけたと連絡が入った。
もう一つの発信機はまだ二人の手元にあるようで行方が分からない。
誘拐現場と携帯電話が捨てられた場所の位置関係から西方向へ向かったのは分かったが、このあたりは環状道路が多く決め手にならないうえ、その方向には保土ヶ谷バイパスが通っていてその先は東名高速、中央高速と交通の便が良い。
あまりにも範囲が広すぎるのだ。
頼みの綱である小型発信機が発する電波の受信可能範囲は半径五キロ。
七瀬はネックレスで比較的外されやすいが、雄太がつけているのは本人でも忘れているくらいに常に身に着けている着けっ放しのアンクレットだ。
数日前に電池を交換したばかりで電力量も十分にある。これが頼りだった。
三台ある受信機を準備させている間に、関東双勇会本部へ出かけていた晃歳と仁が総長に追い返されるように見送られて帰ってきた。
晃歳が移動中に頻繁に携帯電話で連絡を取り合って状況の報告を受けていたため、二人は帰ってくるとすぐに行動が開始できた。
晃歳、貴文、仁の三人がそれぞれに受信機を持ち、それぞれに舎弟を十人以上連れて外へ出る。
発信機の信号を探して回るためだ。
三人がそれぞれに神奈川県の北部、西部、横須賀方面へ別れて出て行った直後、七瀬を乗せたトラックの足取りを追っていた神龍会から情報がもたらされた。
監視カメラと人脈網によって、トラックの移動方向がわかったのだ。
横浜環状二号線を横須賀方面へひた走ったトラックの足取りが金沢八景近辺で途絶えたというのは、きわめて有用な情報である。捜索範囲が狭まってくれた。
別の車に乗り換えた可能性がある分楽観視はできないが、ずっと幹線道路を走っていて不自然な空白時間もないことから、少なくとも金沢八景まではトラックで移動したはずだと判断できた。
川崎市内を西へ移動しながらすでに捜索を始めていた仁は、晃歳からもたらされたその情報に首を傾げたのだが。
「副長は、七瀬が本当にそっちにいると思います?」
『……正直なところ半信半疑というところだ。神龍会の目の前で堂々と誘拐しておいて、易々と後を追わせるとも思えん。だが、手がかりがある以上は潰しておかなければならんからな。お前はどこにいると思う?』
「わかりませんよ。けど、そのトラックは違うと勘が告げてる。雄太はそれに乗ってない」
『あぁ。お前はその本能に従って雄太を探せ。俺は貴文と金沢に行く』
「わかりました」
『見つけたら一人で行かないで連絡よこせよ』
「そちらもお願いします」
どちらも大切な恋人を攫われた同士。見つけたら先走ってしまいそうなのは想像する必要すらない懸念事項だ。
見つけ出すのは組員の手を最大限借り出すとしても、恋人を取り戻すのは自分の手でなければならないのだから。
『敵の正体が今も掴めないままだ。三郷会の件もある。急ごう』
相手が掴めないところも、妙に用意周到なところも、大胆な行動も鮮やかな手際も。
この誘拐は三郷会の銃撃事件を髣髴とさせる。
その場で射殺されなかった分生きている希望はあるが、彼らの身に何が起こるかは未知数だ。
今はただ、二人の無事を祈ってただ走るしかなかった。
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[mokuji]
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