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 翌日は朝から電話が鳴りっぱなしだった。

 場所は関東双勇会事務所。
 電話は大倉七瀬の携帯電話だ。

 第一報があったのは大倉組若頭近江貴文からで、その電話の情報というのが恋人である武人に警視庁捜査一課第六班班長吉野から連絡が入った件についてだ。
 今日の襲撃予告に対してサイトの調査と平行して予告地に厳戒態勢を敷くため、暴力団側への協力を要請するというものだったのだ。
 今件の合同捜査の旗振り役となった管理官はなかなか頭の柔らかい人物であるらしい。

 その後も、住吉組の本家はさすがに今日は立ち入れないと武人本人と孝虎が相談して判断されて、珍しくも大倉組事務所で貴文と共に連絡係を務める予定だということだ。

 そんなわけで、武人から入る情報を仲介するために双勇会本部事務所へ移動した七瀬の携帯電話に次に連絡を入れてきたのが、昨日被害を受けたばかりの結城美岐だった。
 今までは被害者となった七瀬を連絡係にするのは申し訳ないからと遠慮して孝虎を仲介にしていたのだが、今日は反対に孝虎の方が忙しい立場になってしまったため落ち着いてきた七瀬を仲介役に抜擢したものであるらしい。
 その内容はとんでもないものだった。

 美岐から得た情報を七瀬から総長に伝えると、すぐさま双勇会理事全員が集められた。
 用があるのは理事の内の一人だけだが、ついでなので理事補も含めて全員が集められる。
 集まったメンバーの内、昨日の幹部会を欠席していた一人が無役の大倉が同席しているのを訝しみ、その疑問を口にした。昨日の会合でも住吉に対して抗議の声を上げた理事の更科である。
 しかし、その声はさっさと無視して、本部長が議事の開始を告げた。

「今日緊急に集まってもらったのは他でもない。黒狼会からとんでもない報せが入った。大倉。説明を」

「はい」

 頷いて立ち上がる。この段階で、何故七瀬がここにいるのかが明らかになった。更科は舌打ちしそうになって慌てて取り繕っている。

 そこに先に声をあげたのは、呼び出された時間ギリギリに飛び込んできた深山だった。地元が遠いのでどうしても遅くなってしまうのだ。

「その前に、総長。私から報告があります。悪い、大倉。座ってくれ」

「なんだ、深山。大倉より緊急か?」

「いいえ。ただ、大倉の報告はおそらく我々幹部会の問題事でしょうから、先にご報告をと思いまして」

 その後話が紛糾することは簡単に予測できるから、その前に話しておきたいというのだろう。
 わかったと頷いて、昇は七瀬に座るように促した。
 礼を言って、変わって深山が立ち上がる。

「息子から情報が入りました。
 今回のサイトにて標的の選定および扇動、事前調査を担当したとして、大田区所轄刑事が逮捕された模様です。
 その刑事の供述により、サイト主催者がいずれかの暴力団組織であるということが分かりました。本人の言うには、自分はそのヤクザに脅されただけであると。
 その暴力団の名はまだ口にしていない模様です」

 その深山の報告に、幹部会は一気に緊張度を増した。
 最初は素人の犯行と断じていたが、裏で操っているのは中国マフィアの一員だったり、刑事だったり、ヤクザだったり。どんどんと脈絡無く広がっていくのだ。

 深山の報告は事件に関するものとはいえ議題になるものではなく、話が終われば話題は次へ移行する。
 本題である七瀬からの報告だ。

 が。

「……大倉はどこに行った?」

 議事を進行していた本部長が、七瀬が座ったはずの場所にいないことにようやく気付き、首を傾げた。
 途端に自分の足を叩きけしからんと怒鳴ったのは更科だ。

「会合中に中座するとは、今時の若い者は礼儀がなっとらん!」

「大倉でしたら、私が話をしている間に電話があって席を立ちましたよ。今日は住吉が動けない分、黒狼会とサツと中国系の三ヵ所からの連絡を受ける立場だ。致し方ないでしょう」

 自分の話しをしつつも、七瀬が部屋を出て行くところを見ていたらしく、深山がそうフォローの声を上げた。
 その間にそっと七瀬も戻ってきて、ペコリと頭を下げる。

「あぁ、七瀬。戻ったか。お前が行方不明だとちょっとした騒ぎだったぞ」

 昇がそうからかうように言って、隣の西藤組長が咎めている。
 その言葉に、七瀬もすみませんと素直に謝った。

「ご報告が二つに増えました。増えた方を先にお話してかまいませんか?」

 その簡単なやり取りの間にも、また七瀬の携帯電話が震えている。
 今度はすぐにバイブレーションが止まったので、メールの受信らしい。ちらりと文面に目をやって、さらに七瀬が苦笑した。

「たった今、三つに増えました」

 確かに七瀬の携帯電話は忙しいようだ。
 三箇所の情報源がそれぞれに報告を上げてきているのだから、幹部会はそれを全て聞くべきだった。

「報告だけで済むものから話せ」

「ではまず、警察からの情報です。例のサイトのサーバおよび主催者が判明したとのことです。
 現在逮捕状を請求中とのことで、本日中には逮捕に至るだろうと報告がありました」

「犯人はやはり極道か」

「IT企業のようです。名は伏せられてしまったと」

 警察からの情報ならば、情報源は同じ警察官の武人だ。
 それは、川崎に残って情報の集積を請け負った晃歳からの、メールで簡潔に知らされた情報だった。その文面には企業名も書かれていたが、七瀬は自分の判断でそれを伏せた。今ここで口にすれば差し障りのある名前だったからに他ならない。

「二つ目は?」

「中国からです。昨日話に出た中国人ですが、神龍会で身柄を拘束したとのこと。昨日の決定通り処分は任せる旨を伝えてあります。
 その中国人ですが、近頃連続していた強盗事件の主犯であるようです」

「……また、意外なところに繋がったな」

 三郷会で殺人が発生する直前まで、幹部会の話題はその中国系らしい強盗団の処遇についてだったのだ。
 そんな頃にまで遡るとは、さすがに全員予想外だっただろう。





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