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 関東双勇会本部は、昔は前身である有沢組本家であった屋敷をそのまま使っている。近くに本部ビルを持っているため必要な事務仕事や人員配置はそちらで行われており、屋敷は重要な会合や義理事に使用されているものだ。
 総長や組長も普段はビルの方に詰めており、ここは大抵無人である。

 その普段無人の屋敷が、ここ連日フル稼働している。三郷会の襲撃に端を発した一連の件の対策会議のためだ。

 この日の会合は、被害者本人である大倉組長も同席するとあって、ダレかけた出席者たちの関心も高い。
 大倉組長は議場に現れて与えられた席に座し、周囲からの視線や野次を全て無視してそこにいた。
 隣は組長代理として出席している住吉組若頭で、反対の隣はズラリと双勇会幹部が並んでいる。

 やがて上座の襖が開き、総長組長が揃って現れた。総長は関東双勇会をまとめる長の役だが、組長は名前だけが残っている有沢組の組長であり総長補佐の位置づけだ。

 二人が上座に腰を落ち着けると、会で三番目の地位にある本部長が立ち上がった。

「では、会合を始める」

「大田。座れ」

「は」

 二人のやり取りはただの通過儀礼に過ぎず、格式を整えるための形骸でしかない。
 許可を得た形で座った本部長が、全員の視線を集めて議事を進めていく。

「本日は報告が四件挙がっております。深山理事補より一件、住吉より二件、大倉より一件。
 まずは住吉より、本日予定しておりました件について報告いたします」

 議事は基本的に事前に本部に集められた報告を全員に通達する形で進められる。
 そのため全体会議よりも事前に行われる幹部会の方が重要で、七瀬がこの屋敷について幹部会に通されたのも至極当然の成り行きだった。

 指名を受けて孝虎が口を開く。

「ご報告申し上げます。住吉より差し向けましたサツへのツナギルートは無事確立を確認しました。警視庁捜査一課課長へ直通ルートとなっております。
 また、今件につきましては警察庁主導の合同調査へ移行したと報告を受けております」

「もう一つの報告は?」

「はい。黒狼会系三次団体結城組において、本日午後一時頃爆弾により襲撃がありました。組事務所入り口扉の破損および手榴弾一発の爆発で、人的被害なし。襲撃犯の内三人を捕獲し、尋問の上警察へ引き渡したとのこと」

「素性は?」

「リーマンのようですね。うち一人が名刺を持っていて、一般商社の営業マンだったとか」

 報告を聞いて、それが初耳の一同がザワザワとざわめく。
 こんなところに集まるのは組長格の人間であるから、年齢層が高く頭の固い人間が多い。すでに相手はカタギだと判明していたというのに、今更動揺している姿は見苦しいばかりだ。

 そこへ、交通上の不具合を理由に先の幹部会を欠席していた理事が声を張り上げる。

「何故そんな情報をお前が持っている、住吉」

 事情がはっきりしているとはいえ幹部会を欠席していても平然としているその男に、他の理事や理事補からは視線も向かない。
 金を稼ぐことが得意で理事まで上り詰めた男だが、厚顔で組織経営には非協力的なのだ。
 おかげで見向きもされなくなったのだが、本人は全く気にしていないようだ。

「結城に嫁いだ旧友からの情報です」

 被害者本人からもたらされた情報なのだから、それは間違いないことを保証してくれる。
 美岐の存在と子供の頃から仲の良い三人組の関係を知っていれば、すぐに理解できる情報源だ。

「では、次の報告は私から」

 次に口を開いたのは深山である。
 質問者が納得するまで待っていてやる義理は無いとばかりの口ぶりだが、まさにそのつもりだろう。
 注目が自分に集まるのを待って、深山が持ってきた情報を開示した。

「住吉の内偵を情報屋として送り込む仲介を頼んだ探偵の息子から情報が来ました。
 一連の件の首謀者と思しきネットサイトを発見。今回三件および今後の襲撃予告と読み取れる内容です。三郷会の件はともかく大倉の件は一般開示されていない事件ですから、犯人に繋がると見て間違いないものと思われます」

 そうして説明を始めたのは、急いで部下にプリントアウトさせたサイトの画面を各人の手元に配ってのサイトの内容である。
 三郷会と大倉組の襲撃結果に今後の実行計画などが記述されており、本日の予定とされていた結城組の襲撃も実行されたばかりだ。

「次のターゲットは明日、狛江と葛飾が挙げられております」

「葛飾なら住吉が危ないな。十分警戒してくれ。本部からも人を割くか?」

「いえ、それには及びません。お心遣い感謝いたします。結城を見習って確保してご覧に入れましょう」

 昇が言い出した気遣いに感謝を述べて、軽口を叩いてみせる。
 すでに幹部会で聞いていた内容なので、すでに住吉組の方では対応に動き始めていた。
 留守を組長と姐が守っているのだから、命令系統は十分に残っているのだ。

「次代も頼もしいな。そろそろ世代交代か?」

「普段から私も表に出させていただいていますから、むしろ死ぬまで現役を貫くと父は申しておりますよ」

「肩書きが軽くて身軽なのが良いんだろう、お前」

「失礼な。そうですけど」

 会議場だろうが物怖じしないのが孝虎の持ち味だ。
 よく知っていて柔軟な思考が出来る人間は苦笑しているだけで、孝虎をただの若造と思っている人間は孝虎の妙に自身ありげな態度がむしろ困惑材料のようだった。





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