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 と、そこへ会議室外の廊下いっぱいに人が走る音が響いて聞こえてきた。次いで、ドアがノックされ勢い良く開かれる。
 来訪者は室内のメンバー構成に驚いたようでそこに立ち尽くした。

「おう、野島。来たか。早かったな」

 手を挙げて声をかけたのは貢だった。
 そこに集まっているのが自分の部下である武人の他に引退したはずの貢、捜査一課の管理官、鑑識課の課長とそのメンバーという脈絡の無さだ。
 一体何の集まりだと訝しむのも当然の流れだろう。

 さらに後ろから捜査一課課長が戻ってきた。

「あぁ、野島さんに遠藤さんもこちらでしたか。本件について合同捜査の許可が下りました。本店4A会議室までご足労いただけますか? 召集令状はメールで回させてもらいました」

「じゃあ、遠藤課長。これ、うち持って帰って早急に調べますね。えっと、吉井さん? メール借りて良い?」

「あ。URLでしたら課代に送りましたよ」

「そう? じゃ、いいか」

 さくさくと勝手に方針を決めて鑑識官たちは持ち場へ戻っていく。彼らに許可を出した鑑識課長も一緒に部屋を出て行った。

 わけが分からないのは、組織犯罪対策課課長の野島だ。

「何の件だ?」

「吉井さんが内偵に出された件ですよ。
 三郷会の殺しに次々に情報が挙がってます。神奈川に飛び火して、ネットに犯人に繋がりそうな情報が見つかったので、合同捜査に切り替わりました」

 淡々と説明されるが、それは本来マル暴が持っていた案件だ。途端に野島は目を怒らせて武人に詰め寄った。

「何故俺ではなく信田に報告が挙がるんだ」

「待て、野島。
 吉井さんは当初の予定通りヤクザから差し向けられたツナギ役の情報屋としてここにいるだけだ。彼を責めるのは理不尽だろう。
 内偵に入った部下が行った先で役目を与えられて戻ってくるのだから、お前らがここに同席しているのがそもそもの筋じゃないか」

「……当初の予定? 情報屋?」

 武人自身に反論させることなくフォローに回った信田の台詞に、そんな話は初耳だとばかりに野島が首を傾げる。
 まさか上官に報告もせずに来ているとは思えず信田も貢も武人に視線をやると、武人もまた首を傾げていた。

「一昨日、市ノ瀬班長に電話連絡入れましたよ。面が割れてなくてまだ正式な組員でもないから丁度良いとして、警察とのツナギ役を任されました。
 ヤクザの方ではホシはカタギで本決まりと結論を付けていて、だったら警察の仕事だ、と。
 この日この時間に一課課長と面会が決まった旨も昨日連絡入れてます」

「吉井さんはその役目通りに私との面通しのために来ているだけだ。
 次々に情報ってのも、ここに来てから飛び込んできたものだからな。吉井さんに責められる謂れは無い。
 そもそも、第一報はそっちにも行ったんだろう? だから野島が今ここに立ってるんじゃないか」

 そういうわけだ、と整理して説明されれば抵抗するためのネタも無く、野島も引き下がるしかない。
 それにしても面白くないのには違いないが。

「では課長。私もチームを率いて本店へ移動します。課長も行かれますよね?」

「動議を取った立場だからな。指揮は本店の管理官だろうから、引き継いだら引き揚げる。後は頼むぞ」

「わかりました」

 頷いて吉野も部屋を出て行く。それを見送って、自分も当初の対策班を引き連れて移動するべきだと気付いた野島が慌てて出て行った。

 残った三人が改めて顔を見合わせる。

「吉井さんは内偵に戻るのか?」

「警察官だとバレていない以上、戻らなければむしろ彼らを刺激しますよ。
 情報は逐一連絡します。メアドは課長と班長のお二人で良いですか? 電話なら吉野班長でしょうか」

「そうだな。出来る限りメールで頼む。文書で証拠を残しておきたい」

「了解しました」

「合同捜査の内容も吉野から連絡させよう。後は頼むぞ」

「はい。よろしくお願いします」

 本来の顔つなぎとしての役目に必要だった連絡手段の確認を今更のようにやり取りして、三人はようやく会議室を後にする。

 武人が警視庁庁舎を出たのは、入ってから二時間後のことだった。





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